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令和元年度 卒業式・学位記授与式 学長告辞

2020年3月27日更新

平成30年度 学位授与式 学長告辞

 本日、学び舎を巣立って行かれる481名の学部生と276名の大学院生の皆さま、そして8名の論文博士の皆さま、まことにおめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。

 世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大する不安な中で本日を迎えることになりました。卒業・修了される皆さまも、また、ご出席頂くことは出来ませんでしたが、長い間、皆さまの学びを励まし、支えて下さったご家族の方々も、この日を楽しみにしていらっしゃったことと思います。皆さまの健康と安全を第一に考え、様々に検討した上で、今回の様な形式での卒業式・学位記授与式の開催となりましたこと、私たち教職員も、とても残念に思っています。私たちは、この学び舎で皆さまとご一緒に過ごした宝物のような時間を大切に思い、皆さまのご活躍を心から願っています。ご家族の方々には、是非、皆さまから、私たちからのお祝いと感謝の気持ちをお伝え頂ければ、嬉しく思います。
 皆さまには、思い掛けない状況の中で記念すべきこの日を迎えなければならなかったことを悲しむのではなく、これもまた、危機管理を学ぶ経験と捉えて頂いて、それぞれの立場でなすべきことや出来ることを考える機会として頂きたいと思っています。
 多くの方々のご努力で、一日も早く、この事態が終息し、安心して暮らせる日々が戻って来ることを願い、お茶の水女子大学としても、貢献できることを探って参ります。

 ところで、最近大きな話題になっていますので、皆さまも良くご存知と思うのですが、2019年末に世界経済フォーラムが発表した日本のジェンダー・ギャップ指数が、153カ国中121位(昨年は110位)となって居り、世界中の国々が目指している「男女共同参画、女性活躍の環境づくり」における日本の立ち位置は極めて残念な状況です。
 そのような中で、我が国の女性たちが、その資質・能力を十分に発揮して、それぞれの夢を実現できる環境を創るために、国の内外の多くの方々が本学の役割に期待を寄せて下さっていること、さらにはその期待が、年々大きくなっていることを実感しています。私たちは、それらの方々の期待に応えて、日本の女性達が生き生きと活躍できる場を広げるために、これまで以上に努力して行かねばならないとの認識を新たにしています。そして、女性の視点を活かし、性差に着目した教育・研究を充実させることを計画しています。
 本学を卒業あるいは修了された後も、皆さまには、校歌「みがかずば、玉もかがみもなにかせん 学びの道もかくこそありけれ」にありますように、一生をかけて学び、自分自身を磨いて頂きたいと願っています。その姿は、皆さまの先輩たちがそうであったように、社会の多くの方々に評価され、周囲からの信頼を集めることでしょう。それがひいては、日本の女性達が活躍する場を広げ、新たな道を開拓することにつながるものと信じています。

 皆さまが在学されたこの数年間に、直接お話する機会は多くはありませんでしたが、「お茶の水女子大学論」での講義や学外のゲストをお呼びしての講演会、大学執行部と学生代表との懇談会、徽音祭での交流などで、皆さまと交わした言葉の数々を思い出しています。また、東日本大震災で孤児・遺児になった子どもたちとの夏休みと冬休みのキャンプ活動など、ボランティア活動をご一緒した方々のことを、折に触れて思い出します。それらの触れ合いの中で、多くの方が、社会の中で如何にあるべきかを真摯に考えていらっしゃることを知る機会や、多様な人々の幸福のために役立ちたいとの熱い想いをお聴きする機会もありました。そのような場で、「ぶれない個」を確立して一人称で意見を述べることが出来る方が多いことにも感動しました。
 一昨年、トランスジェンダー学生の受け入れに関して、学生さんたちと意見交換をした際にも、誠実に、多様性を受け入れようとする大らかさや柔軟さに胸を打たれました。「お茶の水で育った人たちは素晴らしい!」と、学外の方々に自慢している私です。

 さて、お茶の水女子大学は、1875年に国によって女性のための初の高等教育機関として創設され、145年の歴史を刻んで来ました。その間、時代は明治、大正、昭和、平成、令和と移り変わり、世界中の国々が、戦争や大きな自然災害、経済危機などに直面し、多くの困難を経験して来ましたが、1945年の第二次世界大戦の敗戦を機に、日本は、新しい憲法の下で、平和で文化的な国家を目指し、社会の民主化を進めてきました。本学は元々、日本における女子教育の確立とその全国展開をミッションとして設立されましたが、本学の卒業生達は、日本の近代化の進行と歩みを一にして、全国の女子教育を担い、知性ある女性達を育ててきました。女子のための学校設立に尽力した卒業生も数多く、また、研究の場で活躍した卒業生も多く知られています。
 そして、昨年5月をもって令和の時代が始まりましたので、皆さまは、令和の時代の最初の卒業生・修了生です。

 21世紀に入ってからの世界はかつてないスピードで変動しています。科学・技術は日進月歩で進化していますが、特に情報通信技術の進歩はめざましく、私たちは、国境を越えて世界中の人々とリアルタイムで交信することができるようになりました。また、多様な情報を世界中に向けて同時に配信することもできる社会になりました。ところが、人々の生活が便利になった反面、温暖化や砂漠化など地球環境の破壊が進み、新興・再興感染症の国境を越えた流行、資源の枯渇、さらには地球規模で発生する大規模自然災害など、地球とそこで生きる生物の持続可能性への懸念が、年々深刻化しています。
 変化の激しい現在、本学を巣立ったその先に何があるかは予測が困難であり、どのように対応すべきかを、学生時代のように丁寧に教えてくれる人もいないでしょう。皆さん自身が、社会の中で自ら学び続け、自ら課題に対応し解決していく力を強化しなければならないのです。
 その中で、異なる環境で異なる考え方をもつ人たちと理解し合い、人間として尊敬し合う生き方を身に着け、それをさらに後に続く人たちに示して頂きたいと思っています。そして、新たな道を切り拓く過程を楽しんで頂きたいと願っています。お茶の水女子大学で経験された、文・理の垣根を越えた幅広い学びと、新たな課題の解決を目指した知的訓練は、皆さまにとって、大きな力になることでしょう。

 これから皆さまは、それぞれの夢の実現を目指して、新しい人生が待つ広大な空に羽ばたいて行かれるわけですが、夢に向かって飛翔している途上で、困難に出会うことも少なからずあると思います。思い掛けない失敗をすることも、高い壁に突き当たってくじけそうになることもあるでしょう。でも、どんな時にも、困難なことにチャレンジする勇気と、失敗しても諦めない強さを持って頂きたいと願います。諦めてしまったり、逃げてしまったなら、それまでの努力が無駄になってしまいます。時には方向転換や休息も必要ですが、失敗を恐れていつも安全な道だけを選んでいては、大きな夢を叶えることは難しいかも知れません。チャレンジして失敗することは、決して恥ずかしいことではなく、皆さまを強く鍛えるための糧となり、未来を開く力となります。たとえ、低空飛行が長く続く時でも、ご自分の力を信じて、諦めることなく目標に向かって飛び続けて下さい。そうすれば、必ず高く飛べる機会が訪れます。困難を乗り越えた経験は、自分自身への誇りと、周囲の人々への共感や思いやりを育てます。
 ただ、困ったとき、心が折れそうになったときには、一人で抱え込むことなく、是非、周囲の人たちに助けを求めて下さい。きっと皆さまを思いやり、助けて下さる方がいらっしゃるはずです。
 そして、どの道を選ぶかに迷ったり、もう一度学び直したくなったり、異なる経験の場に身を置きたくなったような時には、是非、母校を訪ねて下さい。私たちはいつまでも、本学で学んだ皆さまと共にありたいと願って、扉を開いてお待ちしています。皆さまも、いつでも遠慮することなく、羽を休めに、母校へ帰っていらして下さい。

 では、広い世界に羽ばたく皆さまに、心からのエールを送ります。皆さまの未来が、豊かで輝かしいものでありますように。くれぐれも心と体の健康に留意なさって、幸せな日々をお送り下さい。

ご卒業、まことにおめでとうございます。

                     令和2年3月23日
お茶の水女子大学長  室伏 きみ子


当日、卒業生・修了生に配布した告辞文を掲載しております。

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