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2026年5月29日更新
お茶の水女子大学の岩切友希日本学術振興会特別研究員(研究当時)と神山翼講師は、熱帯太平洋の気候のゆらぎであるエルニーニョ・南方振動(ENSO:用語1)に対する地球の平均気温の応答について調査しました。特に複数年にわたって持続するラニーニャ現象(多年性ラニーニャ)が、地球全体の平均気温(全球平均気温)を一時的に低下させ、地球温暖化の進行を数年規模で散発的に停滞させる現象を詳しく調べました。
全球平均気温は、人為起源の温室効果ガスの増加により長期的には上昇を続けています。一方、その上昇速度は常に一定ではないことも知られています。これまでの研究では、十年規模の気候のゆらぎが地球温暖化を加速・減速することや、強いエルニーニョ現象が発生した年に全球平均気温が上昇すること等が知られていました。一方で、2, 3年程度継続するラニーニャ現象が、全球平均気温にどのような影響を及ぼすかは十分に調べられていませんでした。本研究では、1950年以降の観測データと、複数の全球気候モデル(コンピューター上に再現された仮想的な地球)の実験データを解析することで、多年性ラニーニャが全球平均気温の低下を引き起こす現象に注目しました(図1)。
多年性ラニーニャの発生年(青色)とそれ以外の年(灰色)における全球平均気温の偏差(産業革命前からの差)。
解析の結果、単年のラニーニャでは全球平均気温が約 −0.11度低下するのに対し、2年続くラニーニャでは全球平均気温が約 −0.18度まで低下することが示されました(図2a)。この現象は、単年のラニーニャでは気温低下が熱帯太平洋のみで顕著な一方、ラニーニャが長期的に持続する場合は、インド洋や大西洋を含む熱帯全体の海洋上層に冷却が広がることで説明されます。そして、このような熱帯全体の冷却キャパシティには上限があるため、3年続くラニーニャではその冷却効果はやはり約-0.18度程度にとどまることも明らかになりました。
このような応答の特徴にヒントを得て、本研究ではエルニーニョ現象やラニーニャ現象に対する全球平均気温の応答を、電気回路素子で構成されるRCローパスフィルター(用語2)のアナロジーによって説明することに成功しました(図2b)。このフィルターの考え方を用いると、熱帯の海洋混合層(用語3)の熱容量(電気容量に対応)と熱伝導率(電気伝導率に対応)を合わせた効果により、全球平均気温の応答の遅れを定量的に説明します。さらに、ある程度の継続時間までは熱帯全体の冷却効果が蓄積する一方で、それ以降はシステムが飽和してしまうことにより、冷却効果に上限が生まれることについても説明できます。
a.ENSO指数(黒線)と全球平均気温(オレンジ棒)。上段、中段、下段はそれぞれ、単年性、2年持続する多年性ラニーニャ、3年持続する多年性ラニーニャ。
b.RC回路に入力する理想化されたENSO指数(黒線)と全球平均気温応答(赤線)。
さらに、このシンプルかつ直感的なフレームワークを用いると、過去75年間における熱帯平均気温のゆらぎは、概ねエルニーニョ現象・ラニーニャ現象に対する応答として理解することができます(図3)。熱帯は地球の面積の半分を占める大きな領域ゆえ、「さまざまなエルニーニョ現象やラニーニャ現象に対して、世界の平均気温はどのように応答するか?」という科学的・社会的に重要な問いに対して、本研究の手法はその答えの主要な部分を説明できたことになります。
本研究は、多年性ラニーニャが地球温暖化を止めるものではない一方で、数年規模では全球平均気温の上昇を一時的に見えにくくする重要な要因であることを示しています。たとえば2020年代前半のように、多年性ラニーニャが数年継続した直後に(2020年-2022年)、強いエルニーニョによる急激な気温上昇が生じた場合(2023年)、我々は単発のエルニーニョ現象のみでは決して説明できないような、非常に大きな全球平均気温の急上昇を経験することになります。
ENSO指数(黒線)、熱帯平均気温(オレンジ線)、RC回路で診断された熱帯平均気温(赤線)。
本成果は、米国気象学会が発行する「Journal of Climate」で掲載される予定です。また本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費) (JP23KJ2168; JP202560182; JP23H01241; JP23K13169)、気候変動予測先端研究プログラム(JPMXD0722680395)、および住友財団環境研究助成の支援により実施されました。
地球温暖化により全球平均気温は長期的に上昇を続けています。しかし、実際の気温変化は滑らかな直線ではなく、年々の自然のゆらぎによって上下します。その代表的な要因が、熱帯太平洋で発生するエルニーニョ現象・ラニーニャ現象です。ラニーニャ現象はエルニーニョ現象に比べて弱い一方で長く続くことが多く、特に2年または3年続く「多年性ラニーニャ」が近年注目されています。
本研究により、ラニーニャ現象が1年で終わる場合よりも、2年続く場合の方が気温の低下が大きくなること、しかし3年続く場合にはそれ以上には気温が低下しないことが明らかになりました。これは、「ラニーニャ現象による気温の低下には上限がある」ことを意味します。この理由は、2年目までは熱帯太平洋で始まった冷却が、1年程度の遅れをもって熱帯のインド洋や大西洋に蓄積する一方で、それ以降は冷却効果が飽和してしまうからです。
さらに本研究では、上記の特徴的な応答にヒントを得て、全球気温応答を電気回路に類推される簡単な考え方で説明しました。このようなアナロジーを用いることで、シンプルかつ直感的な方法で、さまざまなエルニーニョ現象・ラニーニャ現象に対する地球の平均気温の応答を統一的に理解することができます。
この成果は、地球温暖化の進行を正しく理解するうえで重要です。地球温暖化には、長期的な人為起源による気温上昇傾向の上に、エルニーニョ現象やラニーニャ現象等による自然のゆらぎが重なっています。そのため、多年性ラニーニャによって、全球平均気温の上昇が散発的に停滞して見えることがありますが、それは地球温暖化そのものが止まったことを意味しません。むしろ2020年代前半のように、多年性ラニーニャに続けてエルニーニョ現象が発生した場合には、一時的に隠されていた地球温暖化の進行が急激に表面化することで、想定外に大きな気温上昇として現れることもあるのです。
題目:Episodic slowdown of global warming by a multi-year La Niña
雑誌:Journal of Climate
DOI:https://doi.org/10.1175/JCLI-D-25-0686.1
著者:岩切友希1、神山翼2
所属:1.ハワイ大学国際太平洋研究センター、2.お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系
1.エルニーニョ・南方振動(ENSO; El Niño-Southern Oscillation)
熱帯東部太平洋の海面水温が、平年よりも高温または低温となるのを周期的に繰り返す現象。3~8年の周期で繰り返し発生し、熱帯の降水パターン等を変化させることで地球全体に影響を及ぼす。海面水温が平年よりも暖かい状態をエルニーニョ現象、冷たい状態をラニーニャ現象と呼ぶ。
2.RCローパスフィルター(Resistor-Capacitor low-pass filter)
抵抗器(R)とコンデンサー(C)からなる電気回路のシステム。入力に対して出力が時間遅れをもって応答する性質を持つ。本研究では、ラニーニャ現象に対する気温応答の遅れを説明する簡易モデルとして用いた。
3.海洋混合層(ocean mixed layer)
海洋表層で水温や塩分が鉛直方向によく混ざっている層。熱を蓄えるため、大気や海面水温の変化に対する気候応答の時間遅れに重要な役割を果たす。
【研究に関する問い合わせ先】
お茶の水女子大学 基幹研究院 神山 翼
Email:tsubasa@is.ocha.ac.jp
【取材に関する問い合わせ先】
お茶の水女子大学 広報・ダイバーシティ推進課(広報担当)
電話:03-5978-5105
Email: info@cc.ocha.ac.jp