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新型コロナウィルス関連肺炎COVID-19に関する注意喚起について(保健管理センター)(2020年4月13日)

2020年4月13日更新

学生ならびに教職員各位  

2020年1月27日
保健管理センター所長 本田善一郎

新型コロナウイルス感染症COVID-19世界の動向

 2019年末、中国湖北省武漢市に端を発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症COVID-19は世界的に感染が拡大し、2020年4月10日現在、総症例数は1,610,909、死亡例99,690(死亡率6.2%)と、この1週間で症例数は1.5倍死亡例は2倍程度に増加し、死亡率のさらなる上昇が見られ、感染の広がりは先が見通せない状態であり、現存する世界の人々がこれまでに経験したことのない、未曾有の災厄となっています。

図1に見られるように新規症例数の増加アメリカ合衆国でことに著しく、全世界の症例数の~25%に達しています。ヨーロッパでは2月下旬、3月初めから順次導入された強力な社会的封じ込め、感染抑制(suppression)の効果がここにいたって一部の国で見られ、人口当たりの感染数では最も激烈なオーバーシュートに見舞われたスペインの感染数は明らかに減少に転じイタリアの新規感染数もなだらかな減少ながらやや頭を打った様相が見えます。図2に人口補正を行った新規感染数を示しますが(中国の感染例は~80%が湖北省で生じているため、湖北省の人口で補正してあります)、早期に感染が始まった上記の二つの国以外では感染の明らかな減少は見られず、フランスドイツは今週も新規感染数はプラトーの状態とみられ、さらに遅れて感染が始まったイギリス、そしてアメリカ合衆国では新規感染数は未だに上昇傾向にあります。日本新規感染数は、先週までは世界の感染数のオーダーではbase lineに沿っていたのですが、4月以降には目に見える上昇があり、危機的な状況の前兆の可能性があります(なお、図1、2、および図4は区間移動平均により平滑化してあります)。

0413図1,2

中国4月8日武漢市の封じ込めを解除しており、今後の推移を見守る必要があります。一部の報道では中国は真の感染数を報告しておらずデータの信ぴょう性に疑義があるとされていますが、中国は強い抑制(suppression)から緩和(mitigation)への舵を切る初めての国であり、すべての国が感染数の推移に注目しているのであり、正確なデータの提示が強く望まれます。

0413図3

図3に世界各地域の新規感染数の推移を示しています。先々週、先週と同様にヨーロッパアメリカ大陸全世界の症例の~90%を占め、両地域とも明らかなピークアウトを示しておらず、地域レベルでのなだらかなプラトー状態が続いていることが見て取れます。アフリカ、東南アジアなどの新興国の感染報告数は未だに少ないのですが、医療資源、検査機会の限界を表す可能性が指摘されており、これらの国に感染が及ぶと新たな大きな感染の波が世界を覆い、一旦終息に向かった地域にも影響を与えることから、各国でのsuppressionへの強い意志が試されています。

(2020年4月6日 12日)

新型コロナウイルス感染症COVID-19日本の状況

 日本は2月中にクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号日本国籍乗船者から~700人の有症、あるいは検査陽性者を病院(自衛隊中央病院など)に隔離、治療する方針を取り、WHOから「世界で最も注意すべきリスク要因」と指摘されましたが、帰還者からの二次感染を生じることはなく、新規症例数も低く抑えられ、同様に感染自国民を多数引き受けているシンガポールと並び稀有な成功例とされてきました。
 図4に3月1日からの日本各都道府県における新規感染数を示しています。日本の新規症例数は3月下旬から、東京、大阪、愛知など中核都市を抱える都道府県で、(オーダーは異なるものの)ヨーロッパ、アメリカと類似する、指数関数的な上昇が見られていることがわかります。

0413図4

 日本は武漢からの第一の感染の波、おそらく中国の春節2月12日)の大移動による第一波をほぼ完全にやり過ごしました。2月後半から、おそらく中国からの旅行者が発端者となったとされるイタリアでの、そしてスペインでの激烈なオーバーシュートとは完全に様相が異なり、どうして日本がその波を免れたのかは不明であり、将来検証する必要があると考えられます。現在の日本は第二の感染の波ヨーロッパの在外日本人の再入国、あるいは日本でsmoldering infection, くすぶり感染で生き延びてきたウイルスが第二波となり感染が拡大する可能性が懸念されています。

 東京での新規感染者数の増加が急峻であること、さらに、発端者を追えない市中感染の割合が増加していることから、小池東京都知事は3月26日以降、移動禁止の要請(ロックダウン)に度々言及し、3月末及び4月第1週の週末に外出を控えることを要請しました。政府は同様の危機感を持ち、4月6日に緊急事態宣言の発令を予告し、翌4月7日に、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に同宣言を発令し、外出、移動の自粛を要請し、自治体の首長との協議の上、多くの業種での営業自粛、営業時間制限を要請しました。新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言を受け、「人と人との接触を80%減らすこと」で感染を収束に向かわせる(基本再生産数=1人が感染させる人数 を1未満とする)目標を示しました。

日本でのRT-PCR検査の状況、医療への景況

 感染状況を正しく把握する上では、日本のRT-PCR検査(注1)の実施数が、やや増加してきたものの、各国と比較して少なく、例えば最も広く検査が行われている韓国286,716例(3月17日現在、報道による)と比べて、4月12日現在で実施数63,132例(~1/5)と少ないことは気になる点です。死亡率(日本2.0% 、韓国1.6%)、検査陽性率(日本 11.3%、韓国2.9%)であり、死亡率には大きな差は認められていないことがわかります。しかし陽性率には大きな差が認められ、ことに東京では4月12日現在、PCR検査陽性率は33%極めて高くなっています。

 現在日本では、(過渡期にあるとはいえ)感染が強く疑われる症状がある人、あるいは発端者との濃厚接触をした人、を主たる検査対象としており、陽性率の高い集団に対する有効なPCR検査が行われているとも言えるのですが、そしてその方針は、(意図的か、偶然かは別として)軽症のコロナウイルス陽性者を入院させる機会を減少させ、呼吸補助を必要とする重症者を入院させるベッド数を確保する効果があったと確かに実感されるのですが、リアルタイムに真の感染者数を推定するとができない、感染状況、感染爆発の可能性を事前に予測することが難しい、と言う欠点を有しています。

 現在の感染者数の真の値は予想することは難しく、軽症者をホテルなど医療機関以外に移し、重症度によって柔軟に感染者を受け入れる体制が確立することと並行して、PCR検査の件数を増やし、感染状況をより正確にモニターする方向が模索されています。Cepheid社を始め複数の企業によるシングルカートリッジ(サンプル、試薬のチューブ間移動を伴わない)を用いたラピッドアッセイ法が複数、アメリカFDAに認可され、日本においても島津製作所の新型コロナウイルス検出試薬キットが販売、保険適用対象となり、検査者の危険が大きく、時間を要した日本のRT-PCR検査の風景が変わっていくことが期待されています。

(注1)COVID-19(SARS-CoV-2)の確定診断は現状では上気道(鼻粘膜など)のぬぐい液を採取し、RT-PCR法でウイルスRNAを検出することで行われます。医療者の検体採取時の感染リスクが高く、RT-PCR法は多段階の検査手技であることから、簡便な検査とは言えません。RT-PCR法の評価を行った報告(Eurosurveillance:https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2020.25.3.2000045)では、近縁のコロナウイルスを含むCOVID-19以外のウイルス感染患者サンプル297例を検査したところ全例で陰性であり、特異度(COVID-19に感染していない人を正しく陰性と診断する確率)はこの範囲で100%であり、検査範囲で偽陽性はなかったとされています。ですので、検査陽性とされた症例は確かに感染があったとして良さそうです(もし特異度が95%: 5%に偽陽性が出るとすると、~150,000例を検査した韓国では7,500例の偽陽性が出てしまいます)。一方、感度は低く設定され、50-70%とする報告が多く、見落とし(偽陰性、COVID-19感染があっても陽性と判定できない)が30%程度はあることになり、検査陰性でも感染を否定できないことになり、一方、高い特異度と併せ、繰り返し検査をするという方針の根拠となっており、また、多数の症例に検査ができることを担保しています。
(2020年3月23日 3月30日 4月6日 13日)

各国の死亡率差異

 各国の総症例数、死亡数、死亡率を表1に示しています(4月10日WHO)。継時的に明らかに死亡率の絶対値は上昇しており、ことにヨーロッパ諸国ではほとんどの国で死亡率は10%を超え、はるかに重篤な疾患とされたSARSと数字上はほぼ同等となっています。急激な感染数増大によるICU、レスピレーター、医療者の絶対数などの医療資源の相対的枯渇が主たる原因と考えられていますが(DOI: https://doi.org/10.25561/77482) 、地域的に異なるウイルスの変異株の分布が指摘されており(https://www.pnas.org/content/pnas/early/2020/04/07/2004999117.full.pdf)、生物学的な観点(ウイルスの感染生、virulence,:毒性、感受性の人種差)から見た死亡率差異の解析が待たれるところです。ドイツ、スイスの死亡率は依然として低く、日本、韓国は他国の死亡率の上昇から相対的に低くなり、これらも複数の(社会的、生物学的、医学的)理由が取りざたされています。
0413表1
WHO: Novel Coronavirus (2019-nCoV) situation reports
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/
(2020年4月5日 12日)

感染リスクを低減するための個人の行動

個々人が感染リスクを低減するためには、報道で繰り返し指摘されているように、
  1)不特定他者からの感染を避け
  2)他者に感染を広げないこと
が基本となります。

 誰が感染しているかわからない、どこにウイルスが付着しているかはわからない、ことを念頭に置く必要があり、1)不特定他者からの感染を避ける ためにはまず、
  多人数の集合を避ける
ことが最も重要な注意事項となり、多くの人が理解するようになりました。集合する人数が増えるとその中に感染者が存在する確率は指数関数的に急増し、例えば感染者がp = 1/1,000存在すると(この前提は東京に報告値の5倍、1万人の感染者がいることと等しく、十分可能性のあることです)、1,000人が一つの空間に集まるとすると、誰かが感染者である確率は60%を超えます。式典やイベントではこのような状況は容易に起こります。

さらに、
   長距離の移動(海外渡航や留学、その受け入れを含め)を避ける

ことが重要であり、これは本人あるいは周囲の感染リスクのいずれかを上昇させてしまうためです。ことに感染が広がる中核都市から地方への移動は、現地の感染数を急激に増加させ、地方の医療給付を破綻させてしまう可能瀬があり、都道府県の首長は、移動の禁止による感染の地理的分断を強く訴えています。

この二点を守った上で、いわゆる3密を避ける、すなわち、

  ◆ 密集を避ける
  ◆ 密閉空間を避ける(ライブハウス、屋形船、スポーツジム、コールセンター)
  ◆ 密接な場面、対面、間近での発生や食事、を避ける

ことに留意する必要があります。
 感染経路としては、飛沫感染、接触感染が主たるものですが、ことに接触感染が重要であり、共用部分(ドアノブ、キーボード、手すり、蛇口)に触れた手で目、鼻、口の粘膜に触らないこと、折を見て石鹸を用いた手洗い、消毒を行うこと、施設の責任者は共用部分の洗浄、消毒を行うこと、割り箸やマドラーなどのバルク置きを避けること、大皿やサラダバーなどでの食品供与を行わないように、する必要があります。SARS-CoV-2はプラスチックなど平滑表面では72時間以上生存する可能性があり注意が必要です。共用部分を触った手で個人所有の携帯電話を触ることで、接触感染が生じる可能性が指摘されています。

 SARS-CoV-2は飛沫感染で伝播すると考えられていますが、飛沫核、エアロゾルなど小さな飛沫の状態でも生存し長時間空中を漂うと考えられており、密閉空間を避け、換気をすることが非常に重要であり、マスクの重要性を示すものであり、コールセンターでの感染拡大を説明すると考えられています。

 近距離での会話会話しながら(あるいは酒席の接待などでの食事極めて危険ですが、現在最も見逃されている点であり、食事は一人(少人数)で、対面せず、会話せずに摂ることが必要です。

2)他者に感染を広げない、ためには、やはり、
  多人数の集合を避ける
ことが最も重要です。

 3月24日自衛隊中央病院は、受け入れたクルーズ船乗船者104名の症例のまとめをホームページ上で公開しました(https://www.mod.go.jp/gsdf/chosp/index.html)これらの症例は日本国内で行われているPCR検査とは異なり重症者に偏ったバイアスがかからず、軽症者の症状、所見を偏りなく示すことから極めて貴重な情報となります。この報告から、これまでの認識とは異なり、「発熱」の感度は低く、全経過中で発熱を見た症例は32.7%に過ぎず、咳嗽は41.3%とやや多いのですが、このことから発熱がないことではウイルス感染を否定できないことが示されました。以前から指摘されている通りに、CTの感度は高く、症状が軽い例を含め67%に陽性所見が見られています。また、酸素投与を要した症例は13.5%と多く、その半数でネーザルハイフローなど高流量酸素投与を要し、結果として全員が救命されています。

 これらのことから、無症候性、あるいは軽症感染例は予想以上に多く、診断、鑑別診断は容易ではないことが改めて示されました。

 したがって、たとえ症状がなくとも、(検査が容易には行えない)現時点では、自分が感染している可能性がゼロではないことを念頭に置き多人数の集合は避け感染低減策を取り、ことに感染が疑われる場合は、高齢者基礎疾患のある人には接しないようにして、当面のオーバーシュート、医療機関、医療者への過大な負荷を避けることが必要になります。

 日本の医療機関のモラルは高く、有限の医療資源は逼迫しつつありますが、現場で重症者を救おうとする医師、医療機関が極めて多いことには感嘆せざるを得ません。医療者の負担を軽減し、有効な医療に少しでも貢献するために、我々は行動規制を行い、協力する必要があります。
(2020年3月30日 4月6日 13日)

COVID-19、若年者も注意が必要

 COVID-19は軽症に経過する疾患ではなく、中国の疾病予防センター(Chinese Center for Disease Control and Prevention)の報告等から、致死率は全年齢で~4%、80代、60代、40代、30代以下でそれぞれ14%, 3.6%, 0.45%, 0.2%と高く、入院を要するなど重症化する割合は10-20%に達することが明らかとなり、多くの人に理解されるようになりました。ことに若年者の感染は、多くの場合軽症であり感染を広げクラスター(感染小集団)形成を生じる可能性が高いこと、および一部では重症化が見られることから、今後もさらに注意が必要となります。また、感染者のボリュームゾーンは25歳から49歳(~69歳)にあることが推定されており、
Lancet February 20, 2020 DOI: https://doi.org/10.1016/S2589-7500(20)30026-1
若年者が感染しにくいという風説は誤っていることを知る必要があります。(2020年3月8日)

 日本のデータが示され、感染者は20代15%、30代20%、40代20%、50代10−15%、60代10%、70代10%、80代以上数%であり、若年者の感染率が予想よりも高いことが示されています。
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
(2020年4月6日)

0316写真1

出口戦略:公衆衛生的介入(non-pharmaceutical intervention : NPI)

 3月15日レポートの時点では、イギリスのジョンソン首相は感染者の自宅隔離を主とするいわゆる緩和(mitigation)の範囲で死亡率抑制を図り、医療崩壊を防ぎ、緩やかな感染蔓延を許容し、集団免疫を獲得する施策を進めることを明言(3月13日)しましたが、わずか3日で完全に方向転換を行い、社会的封じ込めを含む強い感染抑制(suppression)を行うことを明らかにしました。イギリスの方向転換は、急激な感染増加の渦中にあるヨーロッパの状況では感染者隔離、ハイリスク者の外出禁止など、主として死亡率の低下を測る緩和(mitigation)では効果はなく、救命救急医長の需給バランスの破綻に至り非平衡的な感染爆発(オーバーシュート)が生じるので、強い感染抑制(suppression)が必要であることを如実に示しています。イギリスの方向転換にはNeil M Ferguson(Imperial College London)らによる数理モデル予測
DOI: https://doi.org/10.25561/77482
のインパクトが大きいとされており(注2)、また、イギリスにおける死亡率の急激な上昇も関連しているのかもしれません。


 現在、日本では強い感染抑制が行われ、さらに強いsuppressionに移行する可能性がありますが、いずれにせよどこかの時点でrelease(mitigation)に舵を切る日がきます。現在我々はSARS-CoV-2新型コロナウイルスに対抗する特異的な薬剤、予防手段(ワクチン)を持たず、現有の手段はほぼ、非薬剤的、公衆衛生的介入(non-pharmaceutical intervention : NPI)に限られています。

 NPI を主たる手段とする前提で、Fergusonらは全てのNPIを組み合わせた強いsuppression(注2)を3ヶ月程度導入することで感染は一旦収束するが、解除(mitigation, release)後にリバウンドを生じる可能性が高く、suppressionを繰り返す必要があり、イギリスを対象とする分析では抑制期間と解除期間の長さは2:1程度になるだろうと予測しています(図5)。ただし、社会的な態度学習によって効果が異なるであろうことを暗示しており、日本での封じ込めの成功と併せ、期待を抱かせる点です。NPIのみで長期に絶えることは困難を伴いますが、おそらく数ヶ月から1年の単位でまず治療薬剤が、次にワクチンが使用できる可能性があり、それまでのsuppressionを用いた感染制御は極めて大きな意味を持っています。
0413図5

(注2)Fergusonらは治療薬、予防手段(ワクチン)のない段階での非薬剤的介入(non-pharmaceutical intervention : NPI)の手段として1)感染者及び家族の自宅隔離、2)高齢者の隔離、3)全国民の社会的距離維持(レストラン、公共施設の休業、外出禁止などが含まれると考えられます)、4)学校大学の休校、を挙げ、イギリス、アメリカの現在の感染状況を初期値として分析し、mitigationを構成する1)、2)では感染爆発を防ぐには不十分であり、全てのNPI手段を同時に行うsuppressionで初めて基本再生数(reproduction number:1人が感染させる数)を1未満にして、感染を(一時)収束できることを述べています。
(2020年3月8日 15日、30日 4月5日)

出口戦略:薬剤、ワクチン

 COVID-19を標的として開発された薬剤は現在のところは存在せず、他の感染症治療に認可されている薬剤、あるいは開発中の薬剤の適応外使用(drug repositioning)が行われています。インフルエンザに外来で用いられるオセタミビル(タミフル®)、ラピアクタ(ベラミビル ® いずれもノイラミニダーゼ阻害薬)のように軽症から用いられ効果が示された薬剤は今のところなく、いずれも血液酸素飽和度(肺からの酸素取り込みの血液指標)が低下した、入院例の中等症、重症例に対して用いられ、効果が検証されています。

これまでに査読付きの有力な論文でヒトに対する臨床的な効果が報告された薬剤は少なくとも2種類あり、一つはヒト後天性免疫不全症(Acquired  immune Deficiency Syndrome: AIDS)に使用されるロピナビル, リトナビル配合剤(カレトラ®)です。AIDSの起因病原体であるヒト免疫不全ウイルス(Human3月 Immunodeficiency Virus: HIV)は+鎖RNA(タンパク質をコードするmRNA鎖)をもつ、レトロウイルス(自らの逆転写酵素でRNAからDNAを複製しヒトのゲノム遺伝子に組み込まれる)であり、+鎖RNAからはタンパク質が一つらなりの無機能のポリタンパクとして翻訳され、ウイルスプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の働きで個々の機能タンパク質に分離されるのですが、ロピナビル, リトナビルはこの過程を抑制しウイルスの成熟を阻害します。2020年3月19日に発行された論文(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001282)では、入院症例に対して標準治療(99例)、あるいはそれにロピナビル, リトナビルを加えた治療(100例)のいずれかを割り当てるランダム化(患者を無作為に2群に分けて比較する)、オープンラベル(医師、患者がどちらの治療か予めわかっている)試験が行われ、臨床的改善(退院や活動性、酸素治療の必要性など)が明らかに見られるまでの時間をプライマリー・エンドポイントとして比較しています。極めて正統的なトライアルが行われており、結果は、2群に差はなく、ロピナビル, リトナビルの効果は限定的、否定的とされました。

もう一つはエボラ出血熱(2013年から16年に西アフリカで大流行した致死的熱性感染症)を対象に開発されたレミデシビルであり、エボラ出血熱に対する効果は限定的と判断されたのですが、エボラウイルスはコロナウイルスと同様に+鎖RNAウイルスであり(レトロウイルスではありません)、核酸アナログであるレミデシビルはRNA鎖を鋳型とするRNA複製を阻害し、ウイルスの増殖を抑制し、培養細胞を用いた実験から新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用が見出されたことから、COVID-19に感染し酸素分圧の低下を見た症例に投与され、効果が観察されています(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2007016)。この報告ではコントロール群レミデシビル投与なしが置かれておらず、「比較的重症な例を対象にしたにもかかわらず既報(上記のロピナビル, リトナビルを扱った論文)よりも死亡率が少なく、人工呼吸器を要した症例の70%で呼吸補助が不要になった」ことから、レミデシビル重症なCOVID-19患者に対して臨床的な効果があるのであろう、と推論しています。現在はCOVID-19の標準治療は存在せず、どのような情報も重要であることは明らかですが、正統的なサイエンスの基準に則ると、明らかに科学的根拠としては不十分であると言わざるを得ません。
0316写真2

日本発の薬剤として期待されるファビピラビル(アビガン®)、-鎖RNAウイルスであるインフルエンザウイルスに対して開発された核酸アナログであり、レミデシビルと同様にRNA鎖を鋳型とするRNA複製を阻害し、インフルエンザウイルスでは-鎖から相補的な+鎖の複製を阻害するために翻訳ができずタンパク質が産生されないという強力なダメージを与え治療効果を発揮します。コロナウイルスは+鎖RNAウイルスであり、アビガンは+鎖から-鎖のRNA複製を阻害し、ウイルスの増殖を抑制することでCOVID-9への臨床的効果が発揮されることが期待されます。これまでにインパクトの大きい査読付き論文の発表はなく、日本から薬剤を提供する(時に無償で)国際共同研究が進行しており、サイエンスの基準に則った、核心的な報告がなされることが期待されます。もしこの薬剤が多くの人を救い、入院期間を短縮して多くの人に高度な医療を供給できる環境を提供できれば、ノーベル賞を授与される可能性は極めて高いでしょうし、歴史的な人類に対する福音になると期待されます。

 他にも、細部内器官であるリソゾームの酸性化を阻害する抗マラリア薬であるクロロキン(ヒドロキシクロロキン)、蛋白質分解酵素阻害剤であり、抗インフルエンザ薬のノイラミニダーゼ阻害剤のようにウイルスの細部内へのエントリーを阻害することが示されているナファモスタット(フサン®)など、候補薬剤が挙げられていますが、ヒトを対象とする効果検証は将来の課題となります。

ワクチン、RNAワクチンに関しては、この感染症によって集団免疫における重要性が急激に人口に膾炙したのですが、RNAワクチンを含め、各国が開発を競っている状況です。
(2020年4月12日)

日常的に行う感染リスク低減の方法(再掲)

以下、すでに繰り返し指摘されていることですが、個々人が日常的に行うことができる感染制御方法を再掲します。
我々の注意すべき点は、不特定他者からの感染リスクを低減し、他者に感染を広げないことにあります。すなわち、

1.  感染者との接触を避けること、
2.  手すりやつり革、キーボードなどに残存するウイルスを、自らの手から目、鼻、口の粘膜に移行させないようにすること、そして
3.  自分が発端者となり他へ感染を広げないこと

が必要となります。
ですので、

   外出、出勤退勤時など常に、目、鼻、口を触らないように、手を肩より上に上げないように習慣づけましょう。マスク着用も一定の効果があります。
   職場、自宅に帰るなど区切りの際に、石鹸、流水で20秒間手を洗ってください。アルコール含有消毒液も有効です。
   不要不急の会合を中止し、個々人が人混みに行かないように、時差出勤、在宅勤務を積極的に取り入れてください。
   部屋の換気をしてください。寒い時期ですが、窓を開けて空気を入れ替えましょう。
   感染地域から帰国した際は14日間症状を観察し、できるだけ出勤登校を控え、人との接触を最小限としてください。
(2020年2月25日)

もし、ご自身に熱がある、感染症を思わせる症状があったら、大学ホームページに示されている指針に従って行動してください。
http://www.ocha.ac.jp/900/importantnews/20200226_3.html

症状がある場合は、家族を含め他者に感染を広げないこと、自身の感染リスク、重症化のリスクを正しく判定し受診し、検査を受けること、が重要であり、そのためには、

   熱がある、咳が出る、体がだるい、などの症状がある場合は、自宅待機として、家族との接触、タオルなどの共用を避け、経過を見るとともに、大学の所属機関、保健管理センターに連絡してください。
   症状が強い、熱が数日続く、罹患者との接触が否定できない、などの場合は、下記の連絡先(保健所特設機関等)に電話相談して、受診医療機関、受診方法に関する指示を受けてください。受診の際には医療機関に連絡し、マスクをして受診するなど、他者への感染を起こさないことにご配慮ください。
   高齢、基礎疾患(呼吸器疾患、循環器疾患、糖尿病など)など重症化のリスクがある場合は、かかりつけの医療機関に連絡して指示を受けることが最も良い方法です。あるいは、下記の連絡先に早めに電話相談して指示を受けてください。
(2020年3月2日)

連絡先:

厚労省電話相談窓口
0120-565653 9時から21時
帰国者・接触者相談センター
文京区:03-5803-1824 9時から17時
板橋区:03-3579-2321 9時から17時
他の地域は以下のURL参照
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/coronasodan.html
合同電話相談センター
03-5320-4592 夜間および休日

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