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パネルディスカッション「女性リーダーが未来をつくる 多様性のある社会に向けて」の概要を掲載しました

2017年2月21日更新

「女性リーダーが未来をつくる 多様性のある社会に向けて」(要約)

  • 日時:平成29年1月9日(月曜日)15時~16時半
  • 場所:お茶の水女子大学 共通講義棟2号館1階101室
  • ファシリテーター:
    • 野村 浩子 氏(ジャーナリスト・淑徳大学教授)
    • パネリスト:室伏 きみ子 氏(お茶の水女子大学長)
    • 津谷 正明 氏(株式会社ブリヂストン取締役代表執行役CEO兼取締役会長)
    • 小西 雅子 氏(東京ガス株式会社リビング本部営業第二事業部長)
    • 青山 美奈 氏(株式会社ブリヂストン材料・製品評価品質保証部長)

(野村)先ほどお茶の水女子大学とブリヂストンが女性リーダー育成に向けて協定を締結しました。その記念のシンポジウムを始めたいと思います。

ご登壇されている女性陣は全員がお茶の水女子大学出身で、理学部、家政学部、文教育学部と3学部全てそろっています。今日はかなり幅広い年代の方がお越しくださっていますが、主に女性管理職の入り口に立った方、これから女性のリーダーを目指していく方に向けてメッセージをお届けしたいと思っています。それを通して、育てる側にも何か得られるものがあれば幸いです。

まず、調印を終えられたトップのお二人、津谷さんと室伏学長から、そもそもなぜ女性リーダーを増やす必要があるのかについてお話をお聞かせいただけますか。

(室伏)大学は、教育・研究、社会貢献活動などを通じて、次代を担う若者を育てる場です。私たちは、若い人たちが国の枠組みを超えて自分とは異なる価値観や考え方を持った人たちと深く理解し合い、信頼関係を築き、互いに切磋琢磨し合って、真の国際人として活躍する力を培っていくことを願って、さまざまな取り組みを進めています。特にお茶の水女子大学では、課題が山積する現代社会において、自らが積極的に社会に働き掛けて、社会に変革をもたらすような女性リーダーの育成を目指しています。

そのために、本学ではカリキュラムの開発を進めていて、リーダーシップ育成を目的とする科目群を設置しています。それから、海外派遣プログラムなども用意し、世界的な女性リーダーを招いてシンポジウムや講演会などもたびたび開催しています。また、リーダーシップ醸成のためのさまざまな事業を行っています。

それから、キャリアアップを目指す社会人女性のために、ビジネスリーダー養成塾である「徽音塾」も開催しています。さまざまな学外の社会人の方々にも参加いただいて、ビジネスリーダーになるために必要な素養や覚悟について学び、実践に結び付けていただく塾です。今後もこういった実践と合わせて、国内外のさまざまな機関との連携を強化しつつ、国際的な動向や社会経済の状況にも対応できるリーダーを育てるとともに、それに関する理論の構築を企画しています。

ただ、リーダー育成においては、単に理論や実践などで事足りるとは思っていません。女性リーダーのロールモデルを若い人たちに示すことが極めて重要だと思っています。私たちが卒業生や学外の素晴らしいリーダーたちをお呼びして、学生たちを励ますための催しを行うことも大事ですが、教育・研究を行っている大学自身がその中で優れた女性リーダーを育てて、若い人たちのロールモデルとしてその像を提示することがとても重要だと考えています。ロールモデルが身近にいることが、女子学生たちがさまざまな問題に直面したときに、そのハードルを越えることを容易にする効果があります。

また、大学自身にとっても、女性リーダーを育て、そこで活躍してもらうこと、教育や研究、大学運営の方針を決める立場に女性リーダーが複数いることはとても大事だと思っています。また、女性としてのさまざまな立場や視点に立って、男性社会だけでは生まれてこない考え方を教育や運営の場に反映させることが、大学自身の魅力や強みを生み出すことにもなります。

実際、本学の卒業生は、皆さんそれぞれの課題を乗り越えて、それぞれの立場で新たな価値を生み出し、後に続く後輩たちに道を開く大切な役割をしています。お茶の水女子大では、これからも創造性豊かな発想、多面的な思考力、的確に自己を表現して提案できる力、さらには周囲と協力してその力を引き出す組織力などを兼ね備えて、自身が属する組織の進むべき方向を見誤らないようなリーダーを育てるべく頑張っていきたいと思っています。さらには、そういった学びを経て、社会に巣立っていった卒業生たちをも永く支援し続けていくことを最大のミッションとしたいと考えていますので、皆さまのご支援とご協力をぜひお願いしたいと思います。

(津谷)ブリヂストンは、年間の連結売上高が約3兆5000億円で、その8割が海外、従業員も7割強が海外です。経営環境が大きく変化する中で、持続的に成長するには、グローバルで多様な人材を育成・活用することが不可欠だと考えています。

この1年を振り返っても激動の時代だったと思います。社会の構造や人々の生活のありようが、科学技術も含めて大きく変わろうとしています。そのような中で今までの延長線上のものの考え方や仕事の進め方では追いつきません。その方向性を読み解くことが非常に重要になってきます。ですから、異なる背景や考え方を持った人々が集まるグローバル社会の中で、将来を見通すことが重要です。ジェンダーや年齢も同様です。違う意見や考え方を持ち、違う視点でものを見られる人々が集まることで新しいものが生み出されます。そうでなければ激変する将来に向かって準備することはできません。

当社は現在、経営改革を進めていますが、その基本を担うのは人間です。しかし、人材育成が最も時間がかかり、一律にはできません。リーダーの育成に今から着手しても、成果が出るのは随分先になります。そのような中で、お茶の水女子大学と何か新しいきっかけをつくれないかというのが、私たちが提携を進めている大きな理由の一つです。

もう一つは、当社固有の事情ですが、欧米等の海外の事業体では女性の活躍が進んでいる一方で、日本が遅れていることがあります。当社は日本でも、次世代認定マーク「くるみん」の認定や「なでしこ銘柄」の選定を受けているので、他の企業と比べて少しは進んでいると思いますが、グループ内で国際比較すると、日本が圧倒的に遅れています。管理職に占める女性の比率は、日本の本社で1.5%、国内グループ会社を含めると1%強ですが、アメリカでは18%、ヨーロッパでは12%です。

少子高齢化の中、高等教育を受けた多くの優秀な女性を日本社会でうまく活用できなければ、企業として競争力を失うことになると思います。そのためにも女性のリーダーが必要で、今回の提携で新しいものを生み出せることを期待しています。

(野村)女性の役員比率が高い企業はおしなべて業績がいいという海外の調査もあります。金融・経済情報会社のブルームバーグが、東証一部上場企業で女性役員が1人でもいる企業といない企業の株価の推移を比べたことがあるのですが、累積リターンが全然違うのです。女性を管理職・役員に登用すれば業績が良くなるという単純な話ではないことは重々承知していますが、津谷さんが女性管理職登用を進めてよかったなと実感されたことは何かありますか。

(津谷)室伏学長には2011年から4年間、当社の社外取締役を務めていただきました。その中で、社内の常識で間違っているところがあれば、「津谷さん、それはなぜですか」と鋭いご質問を受けました。別の視点から物事を見ていただいたことは、非常に助かりました。

人口の半分は女性ですし、消費者の半分も女性です。消費を決定する力の半分以上を女性が持っていますので、その方々が何を求めているのかを知ることは、企業として不可欠です。人にはいろいろな適性や違いはありますが、私たちとしては、女性にどのようにうまく働いてもらえるのかが経営の試されているところだと思っています。

(野村)ここから先は、青山さんと小西さんを中心にお話を伺いたいと思います。まず、それぞれ現在のお仕事の内容と責任の領域をお話しいただききます。

(青山)私は、ブリヂストンで材料・製品評価品質保証部の部長を務めています。1991年にお茶の水女子大学の修士課程を修了後、ブリヂストンに技術系の総合職として入社しました。当時は同期総合職160人中、女性が8人と非常に少ない割合でした。学生時代の専門である化学も活かしながら、20年ほど材料開発に携わった後、2013年に現在の品質保証部に異動し、現在は材料の品質保証および製品としてのタイヤの品質保証を担当しております。

(野村)車の運転がお好きで、この世界を選ばれたということですが。

(青山)私は車の運転がとても好きで、学生時代、学外の自動車のサークルに入り、サーキットを走ったり、ジムカーナの競技に参加したりしていました。正直なところ、自動車会社とブリヂストンのどちらに就職するか、とても悩んだのですが、化学屋が中心となって活躍できるのは自動車会社よりもタイヤ会社ではないかと考えて、最終的にブリヂストンを選びました。

(小西)私は、東京ガスの営業第二事業部長という職位にあります。家庭用ガスの中でも新築で戸建て住宅を建てられる年間約6万軒のお客様に「ガスのある暮らしの良さ」をお伝えして、ガスコンロやお風呂、ガスから電気とお湯をつくれるエネファームという最新機器を入れていただく営業の仕事をしています。

ただ、6万軒のお客さま一軒一軒には営業できないので、超大手から地場の家族経営の工務店まで500社を担当して、400人の部隊を率いながら、B to B営業、いわゆるサブユーザー向けの営業をしています。

実は、営業職に就いたのは昨年が初めてでした。

私は大学の食物学科を卒業し、1988年に東京ガスに入社しました。当時、東京ガスには数年でなくなってしまった冷凍食品を扱うための会社があり、その基礎研究職として会社に入りました。そして30歳で育児休暇を取り、その間に博士号を取りました。当時はマタハラとかパワハラという言葉もない時代で「育児休暇を取らせてください」と上司に言ったところ、「育児休暇を取るのはいいけれども、戻ったときに何の資格も取っていないとか、何の変化もないのなら君の机はないよ」と言われたのです。私は会社に入って泣いたことはなかったのですが、その夜だけはさめざめと泣きました。一念発起して食物学科の島田先生に相談したところ、「1年間で論文を書いて博士号を取りましょう」とおっしゃってくださって、それで博士号を取ったのです。

戻った後は、ガス火調理の良さを世の中に情報発信する仕事も経験し、情報番組などで白衣を着て、「この料理のおいしさの秘密はガスにありました」などと言ったりもしました。課長になってからはCM制作などのプロモーションの仕事や、グループ企業の人事・総務などを経て、昨年から営業をしています。

(野村)今にして思えば育休を取るときの上司の厳しい一言が、奮起するきっかけになってよかったともいえますか。

(小西)そうですね。あのときはちょっと恨んだりもしたのですが、今は本当に感謝しています。ただ、今ならパワハラやマタハラと言われて、なかなか上司も言えない言葉だと思います。

(野村)青山さんも2人のお子さんを育てながら管理職になられたのですよね。

(青山)はい。私は高3の息子と中2の娘がいて、育休を2回取りました。当時は、子どもが1歳になる前日まで育休を取れる制度でしたので、2回とも産後休暇と育休合わせて丸1年お休みし、育休に入る前と同じ仕事に復職しました。

そのとき非常にありがたかったのは、当時の上司に「忙しくなることを憂えて、会社を辞めてしまおうなどとは考えないでくれ。取りあえず戻ってきて、育児しながら仕事を頑張ってほしい。やってみてどうしても時間的にも物理的にも無理だと思ったら、その時はじめて辞める選択をしなさい」と言ってもらえたことです。

(野村)ある研究機関の調査によると、女性管理職はお子さんがいない方が6~7割なのです。ということは独身か、結婚していても子どもがいない方が過半数です。一方、男性管理職でお子さんがいない方は2~3割と非常に対照的です。これから管理職を目指す若い女性が、先輩で子育てをしている女性管理職が誰もいない中で、女性管理職になるのなら子育てを諦めなければならないのかと思ってしまう環境がまだある中で、お二人はパイオニア的な存在だったということです。

次にお伺いしたいのは、お二人とも管理職を目指していたのでしょうか。

(青山)私は総合職として入社しましたので、そのまま周りの男性と一緒に成長していくのが当たり前だと思っていました。同期入社のメンバーたちと一緒に成長していき、気づいてみれば会社の中での職位も上がっていました。サラリーマンとして当然かもしれませんが、徐々に管理職を意識するようになって、周りの人と一緒に管理職になり、部長という職位も与えられたという感じです。特に女だから管理職になれないのではないかという危惧を感じたり、逆に女だから頑張って部長にならなければならないという思いはありませんでした。当社の育休などの制度はその当時すでにありましたが、制度を活用していた先輩は身近にはおらず、知らず知らずのうちに先頭グループを走っていたように思います。

(野村)ロールモデルがいないのであれば、自分がなってしまおうと思えるタイプでいらっしゃるのかもしれません。ブリヂストンの女性管理職比率は1%台、総合職に占める女性の割合も十数パーセントと聞いていますので、そういう意味では青山さんが本当に道を開いていらっしゃったのかなと思います。

(小西)私は男女雇用機会均等法の第3期の入社で、育児休暇を取る際もまだロールモデルになるような人も少なくて、正直なところ女性管理職という存在を想像できませんでした。ただ、転機は何だろうと思い起こすと、出産して復帰したことだと思います。私は、娘が小学校を卒業するまで残業は一切しないというスタイルを貫いたのですが、そのためには仕事も効率よくしなければなりませんし、周囲の力をたくさん借りなければなりません。組織としての力がとても重要だということを、身をもって体験しました。

ただ、それでも仕事をしながら子育てするのは大変で、子どものことを犠牲にしたこともたくさんありました。娘は今、お茶の水大の2年生で、イタリアに留学中ですが、学校の運動会でリレーが三つもあって、全部アンカーだったことがありました。これは親として絶対に見に行かなければいけないと思ったのですが、その日にどうしても外せない仕事があって、行けないこともありました。

その時、「子育てでこんなに諦めていることが多いのだから、その分仕事を頑張らなければいけない」、言葉に出さずとも、娘が「お母さんはこんなに頑張っているのだから、仕方ないよね」と分かってもらえるようにしなければいけないと強く思ったのです。ですから、仕事も子育てもどちらも犠牲にしている面があるから、その分どちらもベストを尽くしたいという気持ちで今までやってきて、その結果として今、管理職になれたのかな、と思っています。

(野村)もちろん仕事の質は追求していらっしゃったと思いますが、量はどうしても制限せざるを得ないところがあります。そのあたり、ご自身でどのように線引きをされてきたのでしょうか。

(小西)島田先生が「女性にはどうしてもいろいろなことがあるので、途中で低空飛行しても仕方ない時期がある。ただ、低空飛行が過ぎて、働けるときになったら思い切り仕事をして、最後に帳尻が合えばいい」とよくおっしゃっていて、いつもそれを心に留めていました。ですから、子育て中はもしかしたら6割や7割の力だったかもしれませんが、それを終えて、娘もイタリアに留学して不在ですので、今は自分でその分を取り戻すつもりで、130%や140%の仕事をしているつもりです。

(青山)私の場合は小西さんと少し違って、常に100%を目指してやってきたのが正直なところです。なぜなら、今は60%でいいけれども後で140%となると、自分では多分140%はなし得ないと思ったからです。ですから、今どうしたら周りの男性と同じレベル、つまり100%の力で組織に貢献できるかを考えました。

例えば息子が3年前、病気で2週間ほど入院して、その後も1カ月ほど自宅で療養した時期がありました。今はITのおかげで会社のメールも病室にいながらさばけますので、そのときも病室にパソコンを持ち込んで、息子が寝ている間にはメール処理や文書作成などをして、常に組織に対して何ができるかを考えて、100%を切らないことを目標にやってきました。周囲の方にいろいろなサポートをいただく必要はもちろんあったのですが、常に100%を目指すという点では小西さんと考え方が少し違っていたと思います。

(野村)これには正解というものはないと思いますし、その時々の仕事の状況なり、家族の状況によって選択が変わってくると思いますので、それぞれの選択は非常に参考になります。

次に、管理職になられてから、難しいとお感じになったことは何か、なるべくエピソードを交えながらお話を伺います。

(小西)私は食の業務にずっと携わり、ここ数年は管理職になって初めて携わる仕事も多い中で、一番難しいと思うのは、判断しなければならない領域が格段に増えて、常に判断を迫られることです。

(野村)残業ゼロを貫いていらっしゃったことや、子育てと仕事の両立で時間制約があったための経験不足も少し関係しているのでしょうか。

(小西)個人的な経験不足もあると思いますし、私の場合は長く食の仕事をしてきて、人事や営業の仕事をするのは初めてだったので、いろいろな知識不足も重なり、余計に判断が難しいと感じていたと思います。

(野村)経歴を拝見すると、主に食のスペシャリストとしての道を歩んでいらっしゃったと思うのですが、女性の場合、特に子育て期の場合、どうしても専門職的なコースを長く歩む方が多いです。そうすると、マネジメントの経験を積むことに少し遅れを取ってしまう傾向がこれまであったのですが、そのあたりはいかがでしたか。

(小西)マネジメントの経験を積むのは確かに遅れた面があると思うのですが、同じ業務に長く携わると経験と知識がすごく積み重なるので、いろいろな場で発言したり、たくさんの有益なネットワークが出来たりと、自分自身のキャリアに自信がつくという面もあります。ただ、私自身、今の新しい職では判断が少し難しいと思うことが多いのは事実です。

(野村)それをどのように克服されてきたのでしょうか。

(小西)最初の頃は必ずしも良い判断ができなくて、もしかしたら誤った判断をたくさんしてしまった、という後悔や反省はたくさんあるのですが、今心掛けていることは二つあります。

一つは、部下はそれぞれの立場で自分のお客さまに対して一番良いことをしたいと思うのですが、そういったときに私がぶれない軸を持って判断するということです。私は事業部長という立場で「お客さまにとってのメリットは何か」を考えることが一番大切と考えていますので、まずはそれを軸に判断しようと決めました。

もう一つは、営業先が500社もありますので、全く知らない会社のことを判断しなければならない場合が多く、たいていの場合、私は部下の情報を頼りに判断するしかありません。よって、いかに部下が信頼できる情報を持ってくるか、これが一番重要になります。ですから、私は、とにかく400人の部下が少しでも成長して、一人一人が正しい判断をできるような環境をつくることがとても大切と考えています。

私たちのオフィスは12月に引っ越したのですが、フリーアドレス制で自由な席にし、コミュニケーションを取りやすくしました。それから、モバイルを用意して、いろいろな所で在宅勤務などができるようにし、みんなが少しでも良い環境で仕事ができるような取り組みをしています。

(野村)いろいろな方にも相談されるのですか。

(小西)とても相談する方です。1人で心に留められないタイプなので、もちろん前任者にも相談しますし、上長にも相談しますし、時には部下にもいろいろな相談をして、分からないことは聞くようにしています。

(野村)相談される部下は、何とか小西さんを支えたいという気持ちにきっとなると思います。

(青山)私が管理職として意識しているのは、お客さまのために仕事をしていることをメンバーに理解してもらうことです。特に品質保証の仕事は、即時の判断が求められます。そのときに判断がぶれないこと、間違った判断をしないこと、お客さまの立場ならどうしてほしいかを的確に考えることが非常に大事です。

私は材料をずっと扱ってきたので、材料の保証に対しては自信をもって接することができますが、複合体としてのタイヤでは非常に判断が難しい部分があります。特にそのときは、小西さんと同じように所属メンバーを信頼し、メンバーに情報をきちんと提供してもらい、メンバーの意見もある程度付けて私に持ってきてもらいます。データだけでなく、係長クラスであれば、「あなたの判断をきちんと添えて持ってきてほしい。その上で私はあなたの意見を基に、組織として意見を加えて判断を下します」と発信をしています。職務権限上、ある範囲では私の判断がそのまま会社の判断になりますから、そのように形でメンバーにも意識をもってもらうことが重要だと考えて、メンバーが必ずきちんと勉強して、自信を持って私にデータと意見を提供できる環境をつくることが私の仕事だと思っています。

(野村)今でこそきりっとしたご様子ですが、管理職になった新米のときから今のような境地に至れたのでしょうか。ここに至るまでには試行錯誤や、時には失敗なども少しおありになったのでしょうか。

(青山)失敗は数々重ねてきていて、「懺悔」というメールを上司に出して、「大変申し訳ございませんでした。こんな失態をしでかしました」と謝ったことはたくさんあります。小西さんと違って、会社で泣いたこともあるのですが、失敗は潔く認めます。メンバーに対しても謝るべきと考えた場合はもちろん謝ります。

でも、失敗からただでは起きません。失敗することは仕方ないと思うのです。致命的な失敗をしないことは大事ですが、小さい失敗を重ねても、ただでは起きず必ず何かをつかんで立ち上がるようにいつも考えています。小さな失敗は何回もありますが、ただでは起きずに自分の将来につなげるように考えています。

きりっとしているかどうかという意味では、若い頃から少し怖いタイプとよく言われていたので、管理職になりたての頃からあまり柔らかい感じの人間ではなかったと思います。逆にこれからは、少し柔らかさも出していきたいと思っています。

(野村)失敗に学ぶことが大事で、上司の方は女性の部下だからといって遠慮せずに、失敗させてもいいからやらせてみようと鍛えることが、ステップアップの一番の基礎になっていくと思います。

男性管理職はよく、女性の部下に泣かれて困ったと言います。それがトラウマになって、きつく叱れなくなった方が結構多いのですが、女性はすぐ涙が出るので、全然気にすることはないと思うのです。一度や二度泣かれようが、気にせず叱った方がはるかに本人のためになると思います。私は企業から大学に移って驚いたのですが、最近は男子が実によく泣きます。若い世代は、こうした点でも男女差がなくなっているのかもしれません。

さて青山さんに事前にお話を伺ったら、管理職になって年上の男性の部下から言われてショックだったことがあったということでしたが、そのあたりはもう克服されましたか。

(青山)私が品質保証に異動してきたとき、私より一回り以上年上の男性が私のメンバーになったのですが、「この年になって女の下で働くことになるとは思わなかった。」と言われ、非常にショックでした。当社は女性管理職が少なく、男性の論理や考え方で成り立っている面があると思います。彼は「女性が上司になるなんて、自分が在職している間にこんなに理不尽なことがあるのか」と感じたようでした。

私自身もそのような考え方の人と良い関係で仕事をすることは難しいのではないかと感じたこともありましたが、毎日少しずつ距離を縮めようと一生懸命話しかけました。最初は無視されたこともありましたが、お互いにいろいろ努力した結果、友好な関係を築くことができ、信頼感も生まれてきたと思います。他の人ともそうして不器用ながらも信頼関係をうまく築いていき、組織としての力を高めていくことが私の務めだと思っています。

(野村)毎日話しかけた他に、どうやって信頼関係を築かれたのですか。

(青山)嫌がられても話しかけることを続けました。私は毎日、自分の部署のメンバーと必ず話をするよう心がけています。「たとえ嫌われても私はあなたを信頼しているよ」、「私が組織として最終的に判断するけれども、私はあなたをこれだけ信頼しているから応えてほしい」ということを常に発信することが大切だと考えています。

(野村)次に伺いたいのは、管理職になってよかったと思ったご経験です。そうした醍醐味を実感されたことはおありですか。

(小西)私は、ずっと「何故、私はこんなに会社のことをよく分かっていないのだろう」と思っていました。いろいろな情報を一生懸命収集しているつもりなのに、「こんなことも知らなかった」と思うことが多かったのです。管理職になって、いろいろな情報が入るようになり、視野が広くなったことは本当に良かったと思います。

それから、本当に良かったとしみじみ思うのは、私が発言しても、以前は相手にされずに聞き流されてしまうことも多かったのですが、管理職になって立場が付いてくると、心の中でどう思うかは別として、みんな傾聴してくれます。これは、とてもありがたいことで、自分の思っていることや考えていることを発信できるようになり、とても良かったと感じています。

(野村)女性管理職ならではのマネジメントができたり、女性管理職ならではの視点が生きると感じたりするような場面もありますか。

(小西)やはり女性管理職は男性と視点が違うことが多く、苦労しなくても人と違う視点でものを言えることは強みだと思います。同じようなテーマを与えられても、アプローチや捉え方が全く違ったりします。

それから、現在、女性活用の過渡期にある中で、男性管理職も女性の活躍を気に掛けていると思うのですが、やはり同性である青山さんや私の方がもっと気に掛けているのは間違いなく、女性にいろいろな目配りや細かい配慮ができるのは、女性管理職ならではだと思います。

(野村)B to Bの法人営業として、今までの法人営業とは少し違うアプローチもできたりしますか。

(小西)私の場合、法人営業はハウスメーカーや工務店がお客様で、女性管理職の方はほとんどいらっしゃいません。女性というだけで珍しいので、存在を覚えてもらえるのは、とてもいいことだと思います。

もう一つは、法人営業は今までどうしてもゴルフや夜の懇親というような接待が中心だったのですが、私はずっと食の業務に携わっていたこともあって、お客さまと一緒に料理をして懇親を深めるということもしています。私どもは料理教室を二十数カ所運営しているので、夕方4時ごろからお客さまをお招きし、お好みの料理を一緒に作って交流を深めています。

(青山)私も小西さんと非常に似ているのですが、自分の判断がそのまま組織の意思決定になる部分が醍醐味ですね。担当者の意見は直接は組織の意見とはならず、例えば開発のステップを次に進めるかどうかは上位職者が最終的に決めます。けれども今は、社内会議のときでも、私が「まだ検討すべき課題が残っているので、量産に行くべきではなく、もう一回試作で検証すべきだ」と意見を述べると、それがそのまま会社の判断になります。要するに、自分の判断が経営判断につながっていくところが大きく違うと思います。

それから、私が存在していることで、私の部署の人が育休などの制度を利用しやすくなる面があるのではないかと思います。私の部署では、男性で育休を取った人もいましたが、社内的にはまだかなりレアなケースです。育休を取った彼からは「上司が青山さんだったから、相談しやすく実現につながった」と言われました。私は自分がダイバーシティを地で行くような生き方をしているので、メンバーに対してダイバーシティの観点で良い場を与えられる存在だと思います。私の部署のメンバーの男性が育休を取ることは、彼の奥さんの活躍を間接的に支えることにもなると思うので、引き続きそのような活動をしていきたいと思っています。

(野村)男性であっても、子育てと仕事を両立したいという人がとても増えているので、社会全体が変わらなければならないと思いますし、そのためにも女性管理職の役割は大きいと思います。

私が企業で管理職をしていたときも、何か失敗するとそれが私の失敗ではなく、「女性管理職は駄目だ」というレッテルを貼られてしまう緊張感や難しさを感じていました。幹部会に出ても女性が1人だったりすると、なるべく目立たないようなスーツを着て、端で静かにしていました。こういう状況は、過渡期ですのでまだまだあると思うのです。思い切って変化を促すためには、ポジティブアクションも必要かと思います。

せっかく室伏学長と津谷さんにお越しいただいているので、お伺いしたいと思うのですが、女性のリーダー育成を進めていく上で、現状の課題をどのように把握していて、どんな方策が必要だと思っていらっしゃいますか。

(室伏)お二人の話を伺って、さすが本学の卒業生だと、とてもうれしく思いました。いろいろな大学の方々から、「女性たちを育てて社会に出しても、結婚して子が生まれるから辞めるという場合が多く、自分たちが一生懸命育てたかいがない」という話をお聞きします。しかし、私が知る限りでは、本学で育って卒業した人たちは、ほとんどの人が頑張って仕事も続けていますし、育児なども頑張ってくれています。

その理由を考えてみると、本学の場合は女性の教授や准教授がたくさんいますから、ここで学ぶ若い女性たちは、自分が将来仕事をして、子どもを育てるのは当たり前だと思っている節があって、自分たちが道を選ぶときに高いハードルを感じずに済みます。

一番の問題は、女性たちを取り巻く周囲の人たちが固定観念や既成概念にとらわれていて、それを直接若い人たちにぶつけることが多いことだと思います。ですから、社会全体の意識改革も必要だと思うのですが、まずは若い女性たちに自信を与えて、いろいろなことにチャレンジする勇気を持ってもらえればよいだろうと思います。

先ほど青山さんは「たくさん失敗した」とおっしゃっていましたが、失敗することは少しも恥ずかしいことではなく、新しいことや困難なことにチャレンジすることがとても大事です。女性の場合、何となく周りからの圧力があったりして、チャレンジを控えてしまうところが多分あったと思いますが、失敗しても立ち上がればいいわけで、よほどの大きな失敗でなければ何でもやり直しは利きます。そのことを若い人たちに伝えて、「自信を持ってチャレンジしなさい」と言いたいと思います。

もう一つ大切なのは、相談できる仲間を作ることです。上司でも仲間でも後輩でも良いので、何か困ったことがあったときにどんどん相談できる人を周りに増やすことが重要だと思います。相談することは決して恥ずかしいことではないですし、相談される側も自分は信頼されているという喜びがあると思いますから、周りに多様なサポーターを作っていくことがとても大事だと思います。

お二人とも、いろいろな判断がとても難しかったとおっしゃっていました。確かに判断することはかなり大変なことで、自分自身が属している組織がその判断一つでどうなるか分からない面があります。しかし、組織が間違った方向に行かなければ、多少揺らいでいても構わないと思います。自分が所属している組織が誤った方向に行って、それが組織に属する人たちの幸せにつながらないことがあってはなりませんが、一緒に働く人たちの幸せと良い環境を作ることが常にぶれない信念としてあるならば、多少の失敗はしても問題ないと思います。

皆さんのお話を伺っていて、「こういう人たちが次世代を育ててくれるのだな」と思い、とてもうれしくなりました。皆さんの努力が日本の社会を良くしますし、日本の女性たちが世界で輝くリーダーになっていけると思います。

(野村)今は女性のリーダーを育てようという過渡期にいるので、お二人も私もパイオニア的な役割をどうしても期待されてしまいます。しかし、5年、10年たてば当たり前になる世の中が来ると思います。しかし今は女性管理職はまだ少数派で、積極的な働きかけが必要な面もあると思いますが、津谷さんはそのあたりどうお考えですか。

(津谷)お話を伺っていて、なるほどと思うことが幾つもありました。1点目は、少数派ではないマス(グループ)を意図的につくることだと思います。当社には、青山さんの前に、私のかなり先輩で女性役員の方がおられましたが、突出した存在で、その後が続きませんでした。今はグループを作っていくことを意識しています。アメリカでもアファーマティブアクションを制度として作って取り組んできています。そういうマスづくりがないと定着しないと思います。

2点目は、周りの制度や仕組みを変えることです。結婚は大人同士の関係ですので、ライフスタイルがそれほど大きく変わらないかもしれませんが、子どもはそうはいきません。そのときにどうするのかが多分一番大きいと思います。例えば、当社では、小平地区と横浜地区に事業所内保育所を設けていますが、子どもさんが熱を出してもすぐに見に行けることはとても大事だと思います。社会が女性をきちんと支援する仕組みを構築していく必要があると思います。

3点目は、女性が変わることによって、男性の仕事や生活のスタイルも変わってくるという視点を持つことだと思います。仕事が終わった後もみんなで飲みに行ったり、長時間労働をしているようなスタイルでは競争できません。

また、日本の給与は国際水準から見ても高いです。そのため、国際的な意味で付加価値が高いことをしてもらわなければなりません。そのために仕事を効率よく行って、時間もうまく使う生き方が求められています。そこは女性が変わることが契機となって、男性の生き方や仕事の仕方も変わってくると思いますし、それが社会を良くすると思います。

(野村)いま働き方改革がキーワードになっていますが、男性が生き方や働き方を変えていくことで女性も活躍できますし、女性のリーダーの増加にもつながると思います。

それから、マスをつくるという点では、国も2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%以上にする目標「202030」を掲げています。恐らく達成は難しいと思われますが、号令を掛けていくことは必要だと思います。30%は無理でも、せめて3人だと思うのです。1人だけ象徴的に女性を登用すると、本当に象徴的な存在になってしまいます。例えば女性役員が3人いれば、三者三様の意見になりますが、1人しかいないとそれが女性の意見になってしまいます。ですから、最低3人の同時登用をぜひお願いしたいと思っています。

最後に一言ずつ皆さんにメッセージを頂きたいと思います。

(青山)私は、「女性の活躍」が達成されて、そういう言葉が早くなくなればいいと思っています。誰も「男性の活躍」と言わないのと同じように。また、本当にダイバーシティが達成されれば、ダイバーシティ推進室という組織もなくなると思います。私はそれに向けて、今までも微力ながら会社の仕組みや周りの人の意識をいろいろ少しずつ変えてこられたかなと思っていますし、これからもそういう活動を続けて、次の世代の女性や多様な働き方の人たちを支えていきたいと思っています。私たちの時代は過渡期ですので、受けてきた恩恵はあまり大きくなかったように思います。それを2倍にも3倍にもして、次の人たちの活躍につなげたいです。

(小西)これからも管理職の1人として、ますます頑張っていきたいと思います。4月にはガスの自由化が始まるため、今後、ガス会社のニュースが多くなると思います。「ガス会社といえば、小西がいたな」と思い出していただけると嬉しいです。

(津谷)お話をしていて、女性はやはり強いなと思いました。先ほど、管理職になって困ったこと、苦労したことの中で、決めるときに迷うとおっしゃっていました。それはずっと続くと思います。私も上司に仕えていたときに、上司が決められないときは困りました。ですから、間違っていても決めることが大切です。迷ったり間違ったりするのは特別なことではなく、当たり前のことです。

ちょうど1年前にお茶の水女子大学のセミナーに参加させていただいて、今回は提携を発表させていただきましたが、ものすごいスピードでいろいろなことが変化しています。女性の活躍は、男性の生き方や働き方、社会全体も変えていくと思いますので、1年後にまたもう少し進歩した姿で当社の取り組みについてお話しさせていただければと思います。

(室伏)私は生物学者ですが、生物として見たときに、男性と女性では女性の方がはるかに強いのです。平均寿命などからも分かると思います。それが社会的な意味で弱者のような形で扱われてきましたが、これからの女性はそんなに弱々しくないですし、世の中で活躍できる大きな可能性を持っていると思っています。

ですから、男女の区別をしないで、男性にも女性にも全て同じようなチャンスを与えてほしいと思います。ただ、いろいろな意味で違いはあるので、その違いを上手に活かして、男性にも女性にも働きやすい環境を作って力を発揮していただき、それぞれがリーダーとして育ってほしいと思います。ですから、目指すべきリーダー像は変わらないと思っています。男性も女性も共に手を携えて頑張りましょう。

(野村)私は、2017年は同一労働同一賃金のガイドライン導入や残業の上限規制など働き方改革が進んで、いろいろな意味で改革元年になると思っていたのですが、今日の皆さんのお話を伺って、まさしく新しい一歩が踏み出されると感じました。今日は女性リーダーとして素晴らしいロールモデルの方にもお話を頂き、たくさんのヒントを頂きました。このヒントを基に、皆さんと共に進んでいきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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