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平成26年度 入学式 学長告辞

2014年4月4日更新

2015年オープンキャンパス(理学部) 7月18日 学長挨拶

 新入生の皆様、入学おめでとうございます。
 ご家族はじめ関係の皆様に謹んでご入学をお祝い申し上げます。
 また、御来賓の皆様には、ご臨席をいただきましてまことに有難うございます。

 本日入学された学生の皆様には、この大学の環境を存分に活用して、自らを磨き鍛え、自分を成長させていただきたいと思います。
 お茶の水女子大学は、国によって設置された最も伝統のある女子大学です。本学の前身は、明治8年(1875年)に開学した東京女子師範学校ですが、その後名称を変えつつ、東京女子高等師範学校を経て、1949年に新制大学お茶の水女子大学となりました。
創設から数えて来年が140年になります。
 創設時は湯島(お茶の水)に校舎があり、当時「お茶の水の学校」と呼ばれていたことから、新制大学になる時に「お茶の水女子大学」という名称にしたといわれています。
 現在お茶の水女子大学がこの大塚にあるのは、1923年の関東大震災によって校舎を焼失したことが大きな要因です。震災の9年後(1932年)にこの地に移転し、そのときにこの建物と附属幼稚園が建設されました。
 この大学本館は、附属幼稚園、正門とともに、国の有形文化財に登録されていますが、建物の外壁にはスクラッチタイルが貼られ、玄関には大理石が敷き詰められています。それらは当時の最高級の素材で作られているそうですが、このことは、本学の教育に対する当時の社会的期待の表れでもあります。

 新制の国立大学として「お茶の水女子大学」の設置を求めた際に文部省に提出された文書には、次のように記されていました。(「東京国立女子大学の性格について」)

我が国で最も欠けていてその養成が切望されているのは、各分野にわたって指導的地位に立つ女性であります。かかる女性を養成するのが本学の使命とするところであります。(第八項)
文化の程度が進めば、指導的人物は単に総合的な教養のみを修得した者の間からは求め難くその教養には専門的考究の裏付けを必要とすることは明瞭であります。(第九項)

 つまり、女性リーダーの養成が必要であること、指導的立場に立つ人物には教養だけではなく、同時に専門性を備えていなければならないことが記されていますが、このことは現在でも変わることなくこの大学の使命です。
 とくに今、社会はこれまでにないほど女性の活躍を期待しています。
 今日ご入学の皆様には、その社会的な要請に応えうる確かな力をこの大学で身に付けていただきたいと思います。
 そのためにお茶の水女子大学では特色のある教育体制を整えています。それは、リベラルアーツ教育、グローバル教育、そして、リーダーシップ教育です。
リベラルアーツ教育は、社会的課題を意識し解決するために、多角的に探究する方法の習得を目的としています。これを、「21世紀型文理融合リベラルアーツ教育(新しいウインドウが開きます)」と名づけました。
 グローバル教育については、2年前に、文部科学省の事業である「グローバル人材育成推進事業」の実施機関として選ばれたことを契機に、体制を強化しています。この事業を全学的に展開しているのは、国立大学では四大学だけですが、とくに本学では、学生の海外留学の利便性を考慮して、他大学に先駆けて今年度から四学期制を導入することにしました。
 海外の協定大学もこの5年間で30大学から60大学と倍になりました。環境は整っているはずです。皆様には、この機会を積極的に活用していただきたいと思います。 とはいえ、グローバル教育は当然のことながら、海外で学ぶことだけが主眼ではありません。むしろ、文化の多様性、思考の多様性、価値の多様性を体感し理解することだと私は考えています。
 本学では、2002年にアフガニスタンの女子教育支援を開始して以降、途上国女子教育支援活動を行ってきましたが、それは単なる支援を意味するだけではなく、学生や教職員も他の文化を学び、それによって成長することも意図していました。
様々な環境にある人々と共にあることを意識するのも、グローバルな視点のひとつであると考えています。
 それはまた、リーダーシップ教育としても重要な観点です。
 リーダーシップは、他の存在に配慮し、自らが持てる力を発揮して、その場を担い、組織を効果的に機動させることだと私は理解しています。それは単に強権で他者を従わせることを意味するのではないはずです。そのために大切なことは、自分の意志をもち、適切な判断ができることであり、その基盤をなすのが専門性であり確かな知識です。
 そこで、リベラルアーツ教育、グローバル教育、リーダーシップ教育の基盤となり、お茶の水女子大学の学部での専門教育の最大の特色をなしているのが、「複数プログラム選択履修制度(新しいウインドウが開きます)」です。この制度は、学生が主体的に学び、適切に判断のできる資質を高める教育システムです。
 そして、こうした教育体制は、本学が規模において、また、分野を異にする専門家が日常的に交流している環境があることによってはじめて可能なのであり、さらに、優れた学生の存在によって実現できるのです。

 教育には三様の在り方があるといわれます。( カール・ヤスパース「教育とは何か」)
 一つは、知識を伝達する教育、第二には、崇拝する人への敬愛や権威への追従という形でなされる教育、そして第三に、学生の主体的な探求心と、教える者の知が交錯し、協働する教育の在り方です。
 大学でなされるべき教育は、とくにこのうちの第三の教育ですが、そのためには、主体的に学ぶ意欲のある優れた学生の存在が大前提です。
 これらの点を考えてみると、そうした教育はこの大学でなくてはなしえない教育の姿のように思えます。
 そこで学生の皆様に期待することは、視野を広げ、高度な専門的知識を習得し、何より主体的な思考態度を身につけることです。高等学校までの学びは、問いに対する正しい回答を得るための教育でしたが、この大学では、学生は答えを見出すだけではなく、主体的に、自らが問いを立て、いくつもの答を試す学びの場に身を置くことになります。
 そこで大切なのは、豊な知識と、そして勇気です。

 Sapere aude! という言葉があります。
 「知る勇気をもて」などと訳されますが、ドイツの哲学者カントは、この言葉を、「自分の理性を使う勇気を持て」と解釈しました。(カント『啓蒙とは何か』)
 他人の指示を仰がなければ判断ができない者は未成年の状態であり、それは、自分の理性を働かせる勇気がないことでもある。そこで、「自分の理性を使う勇気を持って」、未成年の状態から脱することが重要である、というのです。
 大学での学びも同じように考えられます。
 主体的に学び、適切に判断する力を身につけること、つまりそれは「知的な成人」へと成長することを意味しています。他者の判断に依存するのではなく、自らが判断する力を身につけることです。

 私達が今いるこの大学講堂は、「徽音堂」と名付けられています。
 徽は「しるし」、「徽音」は美しい音、美しい声、優れた教え、などの意味があるといわれています。いわばこの空間は「優れた知の象徴」といってよいかもしれません。お茶の水女子大学では、入学式や卒業式など、大学にとって大切な行事をこの講堂で行います。
 今まさに入学式を行い、皆さまはここから大学生活を始めます。そして4年後、知的に成人し、広い視野と深い専門性と、適切な判断力つまり高い見識を身に付けて、ここから次のステップへと確かな歩みを進められますことを期待しています。

 本日入学された515名の新入生にご入学のお祝い申し上げ、そして皆様の学生生活が豊かで実り多いものとなりますことを願い、告辞といたします。
 ご入学まことにおめでとうございます。

  平成26年4月4日

お茶の水女子大学長
   羽入 佐和子

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