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令和2年度 卒業式・学位記授与式 学長告辞

2021年3月23日更新

卒業式

本日、お茶の水女子大学を巣立って行かれる480名の学部生と242名の大学院生の皆さま、そして9名の論文博士の皆さま、まことにおめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。

新型コロナウイルスの感染が終息しない中で、本日を迎えることになりました。卒業・修了生の皆さまも、また、ご出席頂くことは出来ませんでしたが、これまで、皆さまの学びを励まし、支えて下さったご家族も、この日をとても楽しみにしていらっしゃったことと思います。私たちが初めて遭遇するコロナ禍という状況下で、皆さまの健康と安全を守りつつ卒業式・学位記授与式を開催するための方策を、様々に検討して参りました。その上で、昨年度と同様に、出席者を出来るだけ絞った上での分散型の卒業式・学位記授与式の開催となりました。このことは、皆さまやご家族にも寂しい想いをおさせすることになりましたが、私たち教職員も、とても残念に思っています。この学び舎で皆さまとご一緒に過ごした時間は、私たちにとりましても、何物にも代え難い大切な想い出です。どうぞご家族の皆さまに、私たち教職員からのお祝いと感謝の気持ちをお伝え頂きたくお願い致します。学生生活の大事な締め括りとも言える最後の1年間に、皆さまが多くの時間を、友人たちや先生方との交流が制限された中で過ごされなければならなかったことは、さぞ辛い体験だったことと思います。でもそんな中でも、いつも前を向いて、教職員たちと共に、より良い学びを構築しようと努力して下さった皆さまの姿や、100年に一度と言われる感染症のパンデミックに遭遇したことを悲しむだけでなく、夫々の立場でなすべきことや出来ることを考える機会と捉えて、ご自分と周囲の方々の安全のために、頑張って下さったことに、心から感謝して居ります。
医療従事者、研究者、そして行政等に関わる多くの方々のご努力で、一日も早く、この事態が終息し、安心して暮らせる日々が戻って来ることを願い、お茶の水女子大学として出来ることを探りつつ、ポストコロナの社会の再構築に貢献して行きたいと考えています。

ところで、本学の学報であるOCHADAI GAZETTEの2月号に、同窓会の広報誌『桜蔭会報』から転載させて頂きましたので、お読み下さった方も少なくないと思いますが、本学の卒業生でいらっしゃる矢口悦子先生が東洋大学で、植木朝子(ともこ)先生が同志社大学で学長に選出され、今年度から就任されています。大規模な私立の総合大学で、その大学の卒業生でない女性研究者が学長に選出され、活躍されることは、極めて稀なことですし、とても素晴らしいことです。矢口先生は、やはり本学の卒業生でいらっしゃる神田道子先生に次ぐ、東洋大学で二人目の女性学長で、植木先生は同志社大学初の女性学長でいらっしゃいます。GAZETTEには、桜蔭会報編集部の方々のお骨折りで、そのお二人と、東京外国語大学の二人目の女性学長でいらっしゃる林佳世子学長と私の4名での誌上対談が実現された桜蔭会報の特集を転載させて頂きました。
本学で学ばれて、そこで培われた精神を活かして、教育と研究で大きな成果を挙げられた3名の先生方のお話は、きっと皆さまの将来に向けた指針ともなると思います。

本学の卒業生の方々は、教育・研究分野のみならず、企業、行政、報道など、多様な分野で力を発揮して、活躍していらっしゃいます。これから広い世界へ羽ばたいて行かれる皆さまにとって、生き生きと活躍される多くの先輩たちが、ロールモデルとなって下さるだろうと思います。
また、卒業生のネットワークである同窓会『桜蔭会』は、日本中はもとより、世界の様々な都市にも拠点を置いて、同窓生同士の情報交換を行い、仕事の上でも助け合って下さっています。私たちも、東日本大震災の後で、遺児・孤児になった子ども達の「居場所づくり」のための活動を開始するに当たって、桜蔭会の東北地方の支部の皆さまが、各地の教育委員会や学校などに繋げて下さいました。そのお蔭で子ども達との活動を開始することができ、その後、10年に亘る活動が続いています。
また、この6年間だけでも、桜蔭会をはじめ、附属学校園の同窓会の皆さまから多様な面におけるご支援を頂いたお蔭で、正門の門扉の復元、図書館の増改築、屋外エレベーター棟の設置、附属高等学校や理学部の改修など、キャンパス整備が実現できました。また、同窓生のご助力もあって、来年度には学内に新しい学生宿舎が出来上がる予定です。
現在は気付かれないかと思いますが、145年余の歴史の中で培われた同窓生同士の絆は、とても深く、強いものです。一昨年に建設された国際交流留学生プラザに、全ての同窓会が集う同窓会コモンズが併設されて、皆さまが活発に活動されていますので、是非、訪ねて頂きたく思います。

21世紀の世界は、かつてないスピードで変動し、科学・技術は日進月歩で進化しています。特に情報通信技術の進歩には目覚ましいものがあり、私たちは、国境を越えて世界中の人々とリアルタイムで交信することができるようになりました。また、多様な情報を世界中に向けて同時に配信することもできる社会になりました。しかし、人々の生活が便利になった反面、温暖化や砂漠化などの地球環境の破壊が進み、資源の枯渇、地球規模で発生する大規模自然災害、さらに、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に見られるような、新興・再興感染症の国境を越えた流行など、地球とそこで生きる生物の持続可能性への懸念が、年々深刻化しています。
そんな中で、皆さまが本学を巣立ったその先に、どんなことが待っているかは予測困難です。難しい問題に行く手を阻まれた時にどのように対応すべきかは、皆さまご自身が課題に対応し、解決していかねばなりませんが、そこでは、異なる文化的背景や異なる考え方をもつ人たちと理解し合い、一人ひとりをかけがえのない存在として尊重する人間観と、幅広い知識と柔軟な思考力・判断力によって課題を洞察し、解決に向けて社会に貢献する「真の教養」が必要とされます。皆さまは、様々な垣根を超えたお茶の水の学びの中で、深い教養を身に着けて来られましたね。
これから皆さまは、お茶の水を巣立って、夢の実現に向けて羽ばたいて行かれますが、夢に向かって飛翔している途上で、思い掛けない困難に出会うことも、高い壁に突き当たってくじけそうになることも、少なからずあることと思います。毎年、卒業生・修了生の方々にお話していることですが、そんな場合にも、困難なことにチャレンジする勇気と、失敗しても諦めない強さを持って頂きたいと願っています。諦めて逃げてしまったなら、それまでの努力が無に帰してしまいます。時には休息や方向転換も必要ですが、失敗を恐れて安全な道だけを選んでいては、大きな夢を叶えることは難しいでしょう。チャレンジして失敗することは、決して恥ずかしいことではなく、皆さまを強く鍛えるための糧となり、未来を開く力ともなります。たとえ、低空飛行が長く続く時でも、ご自分の力を信じて、諦めることなく目標に向かって飛び続けて下さい。そうすれば、きっと高く飛べる機会が訪れます。困難を乗り越えた経験は、自分自身への誇りと自信につながり、周囲の人々への共感や思いやりを育てます。
ただ、心が折れそうになった時には、一人で抱え込むことなく、是非、助けを求めて下さい。きっと皆さまを思いやり、助けて下さる方がいらっしゃるはずです。
そして、どの道を選ぶかに迷ったり、もう一度学び直したくなったり、それまでとは異なる環境に身を置きたくなったような時には、是非、母校を訪ねて下さい。お茶の水女子大学はいつでも皆さまと共にあることを願って、扉を開いてお待ちしています。どうぞいつでも羽を休めに、母校へ帰っていらして下さい。

私もこの3月で、皆さまとご一緒に、お茶の水女子大学を卒業しますので、本日が卒業生・修了生の皆さまにお祝いを申し上げる最後の機会になります。最後に当たって、生物学者としての私から、皆さまにお伝えしたいことがあります。それは、皆さまの命が生命の誕生から40億年もの歴史の中で、途絶えることなくつながって来た奇跡とも言えるたった一つの命だということです。さらに、一人ひとりの命は、その人だけのものではなく、過去・現在・未来を通じて、たくさんの人につながっているのです。今後、どんな困難に出会っても、また病などに苦しむことがあっても、諦めることなく、ご自分自身と周囲の方々の命を大事にして下さることを忘れないで頂きたいと思います。

では、皆さまの未来が、豊かで輝かしいものでありますように、心からのエールを送ります。心と体の健康に留意されて、幸せな日々をお過ごし下さる様、願っています。

改めまして、ご卒業、まことにおめでとうございます。

令和3年3月23日
お茶の水女子大学長  室伏 きみ子

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