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平成31年度 学部入学式 学長告辞

2019年4月4日更新

平成31年度 入学式 学長告辞

505名の皆さま、ご入学おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、ご入学を心からお祝い申し上げます。
また、ご列席のご家族やご関係の皆さまにも、謹んでお慶びを申し上げます。
ご来賓の皆さまには、お忙しい中、ご臨席を賜りましてまことに有難うございます。これからも、新1年生が本学で成長する姿をお見守り下さいます様、お願い申し上げます。

お茶の水女子大学は、1875年に文科・理科から成る日本初の女性のための官立高等教育機関として東京お茶の水の地に創設され、明治、大正、昭和、平成と143年余りに亘って、日本と世界の豊かな未来を創造する優れた女性人材の育成に努めて来ました。
そして、女性が学術研究を行うことが困難な時代から、本学の卒業生は世界的な視点に立って活躍してきました。例えば、わが国の女性科学者として、米国に留学し、初めて海外の学術誌に論文を発表して、初の女性理学博士となった保井コノさんや、女性として初の帝国大学生となり、二人目の女性理学博士となった黒田チカさん、また、第二次世界大戦前後の海外へ行くことさえ困難な時期にフランスに渡って、ジョリオ=キュリー夫妻の許で国際的な女性物理学者として活躍し、その後、日仏の研究者の懸け橋となった湯浅年子さん、帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさんなどを先駆けとして、現在に至るまで、数多くの学者・研究者が育ち、国の内外で活躍しています。 また、わが国初の女医として知られている荻野吟子さんや、英国留学の経験を経てシャム国の教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさん、アメリカ留学の経験を活かして女性の権利向上を広く訴えると共に、日中教育文化交流に尽力し、さらに桜美林学園の創設発展に貢献した小泉郁子さんも、本学の卒業生です。これらの方々は、本学で教鞭を執り、若い女性たちの育成にも尽力されました。
さらには、わが国の女子教育の推進のために学校設立に努力した卒業生も数多く、良く知られた例に、関東大震災の翌年1924年に本学の同窓会である桜蔭会がその名を冠して開設した「桜蔭学園」があります。

143年余の歴史を振り返ってみますと、その前半の70年間は、日本が近代国家としての基盤を構築するために、富国強兵、殖産興業の政策を執って、欧米先進諸国の制度、文化、産業、学術、技術を積極的に導入した時代であり 、さらに、列国との間で利権を巡った争いを繰り返して来た時代でした。後半の70年余は、第二次世界大戦の不幸な経験を経て、平和国家としての立ち位置を世界に向けて明らかにし、国の体制と社会の仕組みを根本から転換させた時代だったと言えます。そして、それぞれの時代の起点において、本学には、新たな時代の要請に応え、時代をリードする優れた女性人材を育てて、社会に送り出すことが求められて来ました。
第二次世界大戦後に、本学の卒業生や教職員たちが、女子高等師範学校から新制の国立総合大学としての「お茶の水女子大学」への移行を求めた文書には、「各分野にわたって指導的地位に立つ女性を養成することが本学の使命である」こと、「指導的人物の育成には広い教養と深い専門性が必要である」ことが述べられています。諸先輩たちの先見性には頭が下がりますが、このことは、第二次大戦後の日本における広範な女子教育の進展に、大きな意味を持ったのです。
こうして、長年に亘って本学に期待されてきた「教養と専門性を備えた女性リーダーの育成」は、現在でも変わることなく、お茶の水女子大学のミッションとして受け継がれ、本学では一貫して、各界で指導的な役割を果たす女性たちを育て、女性の自立と社会的活躍を支えてきました。
なお、新制大学に移行するに当たって、それまで長く愛称として親しまれていた「お茶の水」を大学の名称としました。

皆さまがご参集下さっているこの講堂は「徽音堂」と名付けられています。中国の周の時代の故事に由来する名称で「徽音」とは「美徳」を意味します。本学に集うすべての人々が、美徳ある人として育つことを願って、本学のシンボルでもあるこの講堂の竣工時に命名されました。皆さまは、この「徽音堂」で大学生活の第一歩を踏み出し、4年後にまた「徽音堂」で卒業の日を迎えます。これまでの卒業生の方々がそうであったように、皆さまも、4年間の学びを通じて「美徳ある人」として成長して頂きたいと願っています。

なお、お茶の水女子大学に学びの場を求めて、国境を越えて留学して来られた方々への歓迎の気持ちを込めて、本日、日本の国旗や本学の校旗と共に、留学生の方々のお国の国旗を掲げています。今年は、学部と大学院を合わせて、中華人民共和国、大韓民国、ベトナム社会主義共和国、シンガポール共和国、タイ王国、モンゴル国、イラン・イスラム共和国、アフガニスタン・イスラム共和国、スロバキア共和国、タジキスタン共和国、エジプト・アラブ共和国、アメリカ合衆国の12カ国から留学生をお迎えしています。
留学生の皆さまは、言葉や習慣、生活や考え方、文化や価値観の違いなどに、戸惑われることもあるでしょう。困ったことがあった時には、遠慮されることなく、周囲の学生さんたちや教職員に声を掛けて、相談して下さい。そして、それぞれの夢の実現に向けて研鑽を重ね、この徽音堂で、晴れて卒業の日を迎えて頂きたいと思います。

今朝、正門を入られる時に、新しい芸術的な建物に目を奪われた方もいらっしゃることと思います。「国際交流留学生プラザ、Hisao & Hiroko TAKI PLAZA」と名付けられたこの建物は、先週28日に竣工式を迎えましたが、本学の明るい未来を象徴するような美しい姿が印象的ですね。この特徴ある建物は、私たち卒業生や教職員など、本学に集う人々の20年来の夢であった、国際交流、世代間交流、地域交流の場としての施設ですが、本学の学長特別顧問をお務め下さっている「ぐるなび」創業者の滝久雄さまご夫妻からの多額のご寄附によって建設の運びとなったもので、東京オリンピック2020に向けて建設中の国立競技場の設計者でいらっしゃる隈研吾さまが設計して下さいました。プラザの中には、日本が誇る世界的な 芸術家でいらっしゃる宮田亮平さま、中島千波さま、日比野克彦さまの手による美しいパブリックアートが設置されています。
また、大学と附属校園の数多くの同窓生、ご関係の皆さま、新旧の教職員からのご寄附によって、同窓会コモンズを併設することが出来ました。
大学の同窓会である「桜蔭会」の事務室や会議室なども、コモンズに設置されて居て、同窓会の先輩たちが、卒業生の様々なネットワークを通じて、若い方々の活躍を支援して下さいます。時には同窓会コモンズを訪ねて、先輩たちの活動をご覧になり、そのネットワークを活用して頂きたいと思います。
皆さまは、プラザが建ち上がってから、記念すべき最初の入学生です。

お茶の水女子大学は、小規模な大学ではありますが、文教育学部、理学部、生活科学部の3つの学部と大学院研究科における広い学問領域が用意されており、また、特色ある機構やセンターを備えています。それぞれが特色ある活動を推進すると共に、互いの垣根を出来るだけ低くして、学生さんたちに多様な学びの機会を提供しています。
このキャンパスを舞台に、皆さまには学修と多様な体験を重ねて頂きたいと思っています。そしてお茶の水における学びの成果が、皆さまの将来の夢の実現のために揺るがぬ土台となりますよう、願っています。

皆さまには、大学生活の中で、それぞれの夢を実現するための基礎となる「既成概念にとらわれず、原点に立ち返って考える力」、「自分を信じて、忍耐強く考え抜く力」、「新しい発想を生み出す力」、そして「自ら判断し、その判断に責任を持つ力」を養って頂きたいと思っています。 
その上で、多様な人々と手を携えて、平和で公正な社会、人々が幸せに暮らせる社会を創るために努力して頂きたいと思います。そのためには、「様々な背景を持った人々と理解し合い、多様性を受け入れて互いに尊重し合う精神」と、「自らを相対化することのできる客観性」を身につけることが必要です。
大学での学びは、これまで皆さまが経験して来られた学びとは、大きく異なっています。高等学校までは、解答が用意された問いに答えるような、受身の学びが多かったと思いますが、大学では、皆さま自身が主体的・能動的に学びに関わることが必要です。皆さまの前に大きく広がる学問の世界から、どんなことをどのように自分のものにしていくかは、ひとえに皆さま自身の考え方、対応の仕方に掛かっています。一日も早く大学での学びの流儀を自分のものとして、それを楽しんで頂きたいと思っています。
皆さまが学問する中で、自然の仕組みの巧みさや、法則の美しさを知る時の感激は、忘れられないものになると思います。また、人々が創り上げてきた文化や芸術などの豊かさを知ることも、素晴らしい経験になるでしょう。そうした経験から、新たな発見や独創的な理論が生まれるかも知れません。皆さまは今、胸がドキドキするような学問の扉を開こうとしているのです。

大学生活を送る中で、皆さまの世界は、社会的にも大きく広がります。多様な国や地域で生まれ育ち、異なる資質・能力や文化的背景をもった友人たちとの出会いや、大学外での活動の広がりも、皆さまにとって豊かな成長の機会となります。多様な人々と共に、知的な活動や社会的な活動に自主的、積極的に関わり、研鑽を重ねることは、皆さまを大きく成長させてくれるものです。それこそが、大学生活の醍醐味です。
また、皆さまの先輩たちは、学問に情熱を傾けると同時に、東日本大震災などの大規模災害で被災された方々の支援や、一人親の子ども達や一人暮らしのご老人など、社会的に弱い立場にある方々を支援するためのボランティア活動にも熱心に取り組んでいます。また、それぞれの趣味を活かし、新たな友人を作るためのサークル活動などを楽しんでいます。
皆さまはこれから、お茶の水女子大学で、新たな経験を積んでいくことになりますが、その中で、予想もしなかった困難に出会うことも考えられます。でも、困難を乗り越えるたびに、人は磨かれて、成長します。それが、自分でも気付かなかった能力や可能性に気付く機会ともなります。既に踏み慣らされた安易な道を歩むのではなく、時には、まだ誰も踏み入ったことのない道を選択する勇気を持って頂きたいと思います。大学生時代という貴重で贅沢な時間を有効活用して、自分自身の可能性を思い切り開花させて下さい。本学の校歌「磨かずば、玉もかがみも何かせん。学びの道もかくこそありけれ」にありますように、自分自身を磨き、一生を通じて学び続けて、それぞれの夢を実現させて頂きたいと願っています。

こころと身体の健康を大切に、学園生活を思い切り楽しんで下さい。
皆さまのこれからの実り多い大学生活を心からお祈りして、お祝いの言葉を結びます。 
改めまして、ご入学、まことにおめでとうございます。

2019年4月4日
お茶の水女子大学長
室伏 きみ子

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