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平成27年度 学位授与式 学長告辞

2016年3月28日更新

平成27年度 学位授与式 学長告辞

本日、学位記を授与される皆さま、おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。

ご家族やご関係の皆様にも、謹んでお祝いを申し上げます。長い間、お嬢様方の本学での学びと研究生活を支え続けて下さいましたこと、まことに有難うございました。
また、ご来賓の皆さまには、お忙しくていらっしゃる中、ご臨席を賜りまして、感謝申し上げます。皆さまに、本日の学位記授与式を共にお祝い頂けますこと、心から御礼申し上げます。

このたび学位記を授与されますのは、博士前期課程217名、博士後期課程37名、論文博士12名、合計266名の方々です。そのうち37名の留学生が、中華人民共和国、大韓民国、中華民国、エジプト・アラブ共和国、ポーランド共和国、フィリピン共和国から、本学を留学先として選んで来日され、研究生活を送って来られました。この徽音堂に、日本の国旗と共に、留学生の方々のお国の国旗も掲げてありますが、毎年、国境を越えて、様々な国からお茶の水女子大学大学院に留学生をお迎えすること、そして、本学における特色ある学びと研究生活を経験した皆さまを社会に送り出すことが出来ますことは、私たち教職員にとりまして、とても大きな喜びです。 

これから皆さまは、それぞれの道を歩み始めることになりますね。そして、様々な領域で、これまで培って来られた専門的な力を思う存分活かしつつ、優れた専門家としての人生を創って行かれることでしょう。これまで本学で学位を取得された方々がそうであったように、皆様がその活躍を通じて、周囲からの信頼を集め、後に続く女性たちのために道を拓いて下さることを期待しています。

女性が学術研究に従事することさえ難しい時代から、本学の卒業生は国の内外で活躍してきました。わが国の女性科学者として、様々な困難に遭遇しながらも、海外に留学し研鑽を重ねて、初の女性理学博士となった保井コノさんや、女性で初の帝国大学生となった黒田チカさん、また、第2次世界大戦前後の極めて困難な時期にフランスに渡り、ジョリオ=キュリー夫妻の許で国際的に活躍した湯浅年子さん、女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさんなどを先駆けとして、現在までに、多くの科学者・研究者が育ち、国の内外で活躍しています。
わが国初の女医として知られている荻野吟子さんも、本学を卒業した後に様々な困難を乗り越えて医師になった方です。また、豊富な海外留学の経験を経てシャム国の教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさんも、本学の卒業生です。
現在も、文系・理系を通じて、様々な領域で活躍している女性たちの出身大学や出身大学院を見てみますと、本学出身者がとても多いことに驚かされます。先輩たちの活躍は、後に続く皆さまにとっての目標ともなり、また、力強い後押しとなることでしょう。

皆さまもご存知のように、本学は昨年11月29日に、創立140周年を迎えました。その記念式典で、本学初の女性学長でいらっしゃる本田和子(ますこ)先生にご講演いただきました。本田先生のお話から、私たちは、本学が長い歴史の中で果たしてきた役割の大きさを再認識しました。ご講演を聴かれた方もいらっしゃると思いますが、聴いていらっしゃらない方が多いと思いますので、本田先生のご講演の一部を簡単にご紹介させて頂きます。

午前中の学部卒業式でも、お話しさせて頂きましたが、今日、本学を巣立つ皆さまに、皆さまの母校であるお茶の水女子大学の歴史と、これまで担ってきた役割に思いを馳せて頂きたいと思います。ひとつは、ノーベル平和賞を受賞されたワンガリ・マータイさんに名誉博士号をお受け頂いたときのこと、そして、本田先生が本学の学生でいらっしゃった頃にご一緒された上級生の方のお話です。

皆さまは、ワンガリ・マータイさんをご存知ですね。2004年に「持続可能な開発、民主主義と平和への貢献」によって、アフリカ人女性として史上初のノーベル平和賞を受賞された方です。1940年にケニアに生まれ、アメリカ・ピッツバーグ大学で修士号を、ケニア・ナイロビ大学で博士号を取得されて、1971年にナイロビ大学で初の女性教授となられた生物学者です。マータイさんは、「開発」の名の下に進められる環境破壊と、開発の恩恵からはじき出される人々を目の当たりにして、それをきっかけに環境保護活動を開始され、1977年には「グリーンベルトムーブメント」を創設し、土壌の侵食と砂漠化を防止するための植林活動を開始されましたが、1986年に、「アフリカングリーンベルトネットワーク」へと改称し、その活動をアフリカ全土へと広げました。マータイさんの活動のもうひとつの目的は、「植樹」という環境保護活動を通じて、当時、収入や自立の機会を持たなかったアフリカ農村地帯の女性たちに仕事を提供し、女性の地位向上、貧困撲滅、民主化促進などを展開するものでした。政治家としても活躍され、ケニアの環境・天然資源・野生動物省の副大臣や アフリカ連合経済社会文化会議の初代議長も務められました。2011年に71歳で亡くなられるまでの34年間に、延べ10万人以上がこの運動に参加し、植えられた苗木は4500万本にも上ったそうです。

マータイさんは、2005年に毎日新聞社の招待で来日されましたが、その際に、日本の「もったいない」という考え方に共鳴されて、世界中で「MOTTAINAIキャンペーン」を推進された方としても知られています。

来日されるのを機に、本学から名誉博士号を差し上げたいと、毎日新聞社を通じてお願いしました。数多くの大学からオファーがあったとのことでしたが、マータイさんは最初に本学を選んで下さいました。名誉博士号授与式に際して「お茶の水女子大学は、日本が近代国家になるときに政府によって創設され、国が国民の税金で運営してきた古い大学だと聞いています。日本という国は、政府も国民も、女性の教育を大切にしているようです。女子教育のために頑張っているお茶の水女子大学は、これから女子教育を始めようとしている私たちのような国々にとって“希望の星”です」と仰って下さいました。当時、副学長として本田学長をお手伝いしていた私は、幸いなことにマータイさんとじかにお話する機会がありましたが、過酷な境遇に置かれている女性たちのために、生涯を掛けて取り組んでいらっしゃるマータイさんの温かいまなざしと強い意志に触れて、大きな感銘を受けました。同時に、本学が積み重ねてきた歩みが高く評価されていることの嬉しさを、噛み締めました。

また、本田先生のご講演では、先生が本学に在学していらっしゃった頃の上級生の方のことも紹介して下さいました。当時の女性たちの多くは、若い男性たちが軍人として戦場に赴いてしまうため、高等女学校を卒業するとすぐに17~18歳で結婚することが多かったようです。その上級生の方も、高等女学校を卒業してすぐに結婚されたそうですが、その後僅か3ヶ月でお相手が召集され、特攻隊員として南の海で戦死されました。17歳という若さで戦争未亡人となってしまったわけです。暫くの間、絶望と悲しみの中にいらしたその方は、本学の前身である東京女子高等師範学校が優れた教育者や先進的な女性たちを輩出していたことから、本学に入学することを決意されて、一人の人間として自立する道を選ばれたそうです。本学で学ぶことに“希望の光”を見出されたとのことでした。

本学が、140年の長きにわたって、女性たちが一人の人間として自立し、有意義な人生を創るための学びの場となったことは、その歴史の末端に身を置いている私たちにとっても、例えようもなく嬉しいことです。

お茶の水女子大学には、これまでも、またこれからも、様々な役割が期待されて居ますが、女性たちの未来に“希望の灯火”を掲げ続けることが、本学の大きな使命であることを、忘れてはならないと思います。記念式典での本田先生のお話を通じて、私たちが大きな争いのない穏やかな日常を過ごし、愛と信頼で結ばれた人々との生活を慈しむことの大切さを、心に刻むことができました。

今月11日に、東日本大震災5周年を迎えました。この大震災がもたらした悲惨な事態は、多くの人々に、人知が及ばない自然の力の大きさを知らしめると共に、人々が心を寄せ合い、助け合うことの素晴らしさも強く認識させるものでした。

今日学位記を授与される皆さまの中には、震災直後から、さまざまな想いを持って、被災者の救援活動や被災地の復興支援活動にボランティアとして参加して下さった方々が少なからずいらっしゃいますね。春、夏、秋、冬の学校の休みを利用して、被災孤児や遺児の支援活動に、私たちとご一緒して下さった方もいらっしゃいました。また、継続した被災地訪問を通じて被災者を支える活動を続けた方々、被災地の子ども達の学修支援に奔走した方々など、多くの学生・院生や教職員の方々が、頑張って下さったこと、今も、そしてこれからも、力を尽くして下さっていることを知るたびに、心からの感動を覚えます。そうした皆様は、社会が大きな不幸に襲われた際に、自分に何ができるかを真剣に考え、また行動することを通じて、従来の大学生活だけでは得られなかった、大きな成長を遂げて来られたと思います。今日、そのような経験も経て本学を巣立って行かれる皆さまの姿は、とても頼もしく、輝いています。

皆さまをお送りする言葉として、生涯にわたって「幅広い学び」を続け、失敗を恐れずにチャレンジして頂きたいということを、お伝えしたいと思います。それぞれの分野で自分自身を輝かせるためには、常に専門以外の事柄にも目を開いて、新しい知識や異なったものの見方や思考法を学び続け、求め続けて頂きたいと思います。それが、皆さまの仕事や日々の生活をさらに豊かに、実りあるものにすると信じます。

長い人生には、様々な思いがけないことが起こります。困難な場面に遭遇したり、壁に突き当たったりして、物事が思うように進まないことが少なからずあると思います。チャレンジして失敗することは恥ずかしいことではありません。失敗が皆さんを強くし、想像力を育てます。是非、失敗しても諦めることなく、歩み続けて頂きたいと思っています。諦めずに歩み続けることが、自分自身を成長させ、将来を拓くことにも繋がりますし、困難を乗り越えたときには、自分自身への誇りが生まれると思います。

人生の谷に差し掛かった時に、諦めたり逃げたくなったりすることもあるでしょう。うまく行かない時は、低空飛行を続けながら、起死回生の時を待ちましょう。長い間、低空飛行を続けることもあるかも知れませんが、諦めて着陸してしまわずに、飛び続けて頂きたいと思います。飛び続けてさえいれば、必ずまた高く飛べるときが来るはずです。そして、困難に出会って悩んだ経験や、失敗を乗り越えた経験は、周囲の人々への思いやりや共感にも繋がります。

ただ、困ったときには、一人で悩まずに、周りの人たちに助けを求めて下さい。皆さまが周囲の人たちを思いやるのと同様に、皆さまを思いやり、助けて下さる方は必ずいらっしゃるはずです。

そして、いつでも、皆さまの母校であるお茶の水女子大学に、羽を休めに帰っていらして下さい。悩みを抱えている時だけでなく、嬉しい時、悲しい時、学びなおしたい時---、是非、母校を訪ね、様々な近況も知らせて下さい。どんな時にも、そしていつまでも、お茶の水女子大学は皆さまを喜んでお迎えします。

私たちが、皆さまを誇りに思っていると同様に、皆さまにも、本学で学位を取得されたことへの誇りを持って、胸を張って歩んで頂きたいと思っています。皆さまが、深い専門性と豊かな教養を併せ持つことによって、絶えず自らを磨きながら、これからの日本を、そして世界を、力強くリードして行って下さることを期待しています。

皆さまに輝かしい未来が待っていることをお祈りして、お祝いの言葉を結びます。

本日は、まことにおめでとうございます。

平成28年3月23日

お茶の水女子大学長
室伏 きみ子

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