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平成27年度 卒業式 学長告辞

2016年3月28日更新

平成27年度 卒業式 学長告辞

488名の皆さま、ご卒業おめでとうございます。お茶の水女子大学の教職員を代表して、皆さまに心よりお祝いを申し上げます。
ご家族やご関係の皆様にも、謹んでご卒業をお祝い申し上げます。長い間、お嬢様方の本学での勉学をお支え頂きまして、有難うございました。
また、御来賓の皆さまには、お忙しい中、ご臨席を賜りまして、卒業生たちの門出を共にお祝い頂き、エールをお送り頂けますこと、まことに有難うございます。

皆さまもご存知のように、本学は、昨年11月29日に創立140周年を迎えました。記念式典や記念行事には、内外の多くの皆さまにご列席頂き、共にお祝い頂くことが出来ました。記念式典では、2001年に本学初の女性学長となられた本田和子先生から、ご講演を頂きましたが、お茶の水女子大学への愛に溢れた本田先生のお話から、式典に出席していた人々は大きな感動を頂きました。本日は、皆さまに、そのご講演の一部を紹介させて頂き、本学が長い歴史の中で果たしてきた役割の一端に思いを馳せて頂きたいと思います。ひとつは、ノーベル平和賞を受賞されたワンガリ・マータイさんに名誉博士号をお受け頂いたときのこと、そして、本田先生が本学の学生でいらっしゃった頃にご一緒された上級生の方のお話です。

皆さまは、ワンガリ・マータイさんをご存知ですね。ケニア・ナイロビ大学で初の女性教授となられた生物学者で、「開発」の名の下に進められる環境破壊と、開発の恩恵からはじき出される人々を目の当たりにして、環境保護活動を開始され、1977年に「グリーンベルト運動」を創設されました。この運動は、植樹という環境保護活動を通じて、当時、収入や自立の機会を持たなかったアフリカの農村地帯の女性たちに仕事を提供し、女性の地位向上、貧困撲滅、民主化促進などを展開するものでした。2011年に亡くなられるまでの34年間に、延べ10万人以上がこの運動に参加し、植えられた苗木は4500万本にも上ったそうです。この地道な活動によって、2004年にアフリカ人女性として初のノーベル賞(平和賞)を受賞されました。政治家としても活躍され、ケニアの環境・天然資源・野生動物省の副大臣や アフリカ連合経済社会文化会議の初代議長も務められました。
2005年に毎日新聞社の招待で来日され、日本の「もったいない」という考え方に共鳴されて、世界中で「MOTTAINAIキャンペーン」を推進された方としても知られています。

来日されることを機に、本学から名誉博士号を差し上げたいと、毎日新聞社を通じてお願いしました。数多くの大学からオファーがあったそうですが、マータイさんはその中から最初に本学を選んで下さいました。授与式に際してマータイさんは、「お茶の水女子大学は、日本が近代国家になるときに政府によって創設され、国が国民の税金で運営してきた古い大学だと聞いています。日本という国は、政府も国民も、女性の教育を大切にしているようです。女子教育のために頑張っているお茶の水女子大学は、これから女子教育を始めようとしている私たちのような国々にとって“希望の星”です」 と仰って下さいました。当時、私は、副学長として 本田学長のお手伝いをして居りましたが、マータイさんとじかにお話し、女性たちの自律を願う温かいまなざしと強い意志に触れて、世界にはまだまだ過酷な境遇に置かれている女性たちが多いこと、そしてその女性たちの自立と環境保護のために、生涯を掛けて取り組んでいらっしゃるマータイさんの姿勢に大きな感銘を受けました。同時に、本学の女子教育の歩みが高く評価されていることの嬉しさを、噛み締めました。

また、マータイさんが仰って下さった“希望の星”という言葉から思い出されたこととして、本田先生の本学在学中の上級生の方のお話もして下さいました。当時の女性たちの多くは、若い男性たちが軍人として戦場に赴いてしまうため、高等女学校を卒業するとすぐに17~18歳で結婚することが多かったようです。その上級生の方も、高等女学校を卒業してすぐに結婚されたそうですが、その後僅か3ヶ月でお相手が召集され、特攻隊員として南の海で戦死されました。17 歳という若さで戦争未亡人となったわけです。暫く、絶望の淵に沈み、悲しみの中にいらしたその方は、その当時から本学が先進的な女性たちを輩出していたことを知り、本学の前身である東京女子高等師範学校に入学することを決意されて、一人の人間として自立する道を選ばれたそうです。本学で学ぶことに“希望の光”を見出されたとのことでした。
本学が、その方が悲しみから立ち直るきっかけともなり、その後の有意義な人生を創るための学びの場となったことは、140年の歴史の末端に身を置いている私たちにとっても、本当に嬉しいことです。
創設当時から、本学には、教養と専門性を備えた女性リーダーの育成が期待されて来ました。そして、本学の卒業生たちの多くは、優れた教員として日本の女子教育を担い、知性ある女性たちを育てて来ました。国の女子教育の推進のために学校設立に努力した卒業生も数多く、関東大震災の翌年1924年に本学の同窓会である桜蔭会が開設した「桜蔭学園」は、その中でも良く知られた例です。

また、本学の卒業生は、女性が学術研究に従事することなど考えられなかった時代から、国境を越えた活躍をして来ました。国の内外において研鑽を深め、日本で初の女性理学博士となった保井コノさんや、初の女性帝国大学生となった黒田チカさん、また、第2次世界大戦前後の極めて困難な時期に、フランスに渡って原子物理学者として活躍し、日仏研究者の架け橋ともなった湯浅年子さん、女性を受け入れなかった帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさんなどを先駆けとして、現在までに数多くの科学者・研究者が育ち、国の内外で活発に活動しています。
わが国初の女医として知られている荻野吟子さんや、英国留学の経験を経て、当時のシャム国の女子教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつ さんも、本学の卒業生です。
現在も、様々な領域で活躍している女性たちの多くが、本学の出身者であることに驚かされます。先輩たちの活躍は、後に続く皆さまにとって、力強い後押しとなってくれることでしょう。

本学には、これまでも、またこれからも、様々な役割が期待されて居ますが、創立以来のお茶の水の精神である「女性たちの未来に希望の灯火を掲げ続ける」ことが、本学の大きな使命であることを、忘れてはならないと思います。

現在、私達を取り巻く社会環境は大きく変動しており、様々な国で争いが起こり、世界中で自然災害が頻発して、人々の穏やかな生活が失われる事態が起こっています。
今月11日に、東日本大震災5周年を迎えましたが、この大震災がもたらした悲惨な事態は、多くの人々に、人知が及ばない自然の力の大きさを知らしめると共に、人々が心を寄せ合い、助け合うことの素晴らしさも強く認識させるものでした。
今日卒業される皆さまをはじめ、少なからぬ学生の方々が、それぞれの想いを持って、救援活動や復興支援活動にボランティアとして参加して来られたことは、とても素晴らしいことです。この5年間、春・夏・秋・冬の学校の休みを利用して、被災孤児や遺児の支援活動に 私たちとご一緒して下さった方々もいらっしゃいましたね。また、継続した被災地訪問を通じて、被災者を支える活動を続けた方々、被災地の子ども達の学修支援に奔走した方々など、多くの学生さんたちや教職員の方々が、頑張って下さったこと、今も頑張って下さっていることを知るたびに、心からの感動を覚えます。そうした皆様は、大きな社会的な不幸の中で、自分に何ができるかを真剣に考え、また、行動することを通じて、日々重ねてきた学問への研鑽と共に、社会における自らの在り方についても自己研鑽を重ね、大きな成長を遂げて来られたと思います。今日、そのような経験を経て卒業の日を迎えている皆さまの姿は、頼もしく、また、輝いています。

多くの人々が悲しみや不幸に見舞われている状況がある中で、皆さまには、日々の暮らしが穏やかに続くこと、普通の生活を送れること、人々が信頼し合い手を取り合って暮らせることの大切さを、心に刻んで頂きたいと願います。br> そして、お茶の水女子大学で学び、経験した様々なことを活かして、弱い立場にある人々への思いやりを忘れず、日本と世界の人々の幸せのために、自分たちに何ができるかを問い続けながら、それぞれの道を誇り高く歩んで頂きたいと願っています。
皆さまの卒業後の進路はさまざまでしょう。引き続き大学に残って大学院へ進学する方も、また社会の現場に出ていく方もいらっしゃいますね。今日、お茶の水女子大学を巣立って、様々な場へと羽ばたいて行かれるわけですが、どんな道を選ばれるにしても、皆さまには、「失敗しても諦めない」ということを、心に留めて頂きたいと思います。長い人生では、思いがけないことが起こります。困難な場面に遭遇したり、壁に突き当たったりして、物事が思うように進まないことが少なからずあると思います。でも、チャレンジして失敗することは、恥ずかしいことではありません。失敗は、皆さんを強くし、成長させ、将来を拓く力ともなります。是非、諦めることなく飛び続けて下さい。
人生の谷に差し掛かった時に、諦めたり逃げてしまいたくなったりすることもあるでしょう。ですが、諦めてしまったり、逃げてしまったりしたら、それまでの努力も無駄になってしまいます。暫くの間、低空飛行を続けることもあると思いますが、低空飛行でも構わずに、飛び続けて頂きたいと思います。飛び続けていれば、必ずまた高く飛べるときが来るはずです。諦めて飛ぶことをやめてしまうと、また飛び立つためには、とても大きなエネルギーが必要です。また、困難に出会って悩み、それを乗り越えた経験は、周囲の人々への思いやりや共感にも繋がりますし、そこから自分自身への誇りも生まれます。
ただ、困ったときには一人で悩んだり苦しんだりせずに、是非、周りの人たちに助けを求めて下さい。皆さんが周囲の人たちを思いやるのと同様に、皆さんを思いやり、助けて下さる方がいらっしゃるはずです。
そして、いつでも、皆さんの母校であるお茶の水女子大学に、羽を休めに帰っていらして下さい。悩みを抱えている時だけでなく、嬉しい時、悲しい時、学びなおしたい時、---、どんな時にも、そしていつまでも、お茶の水女子大学は皆さまを喜んでお迎えします。

では、お元気で、新たな道に踏み出してください。私たちが、皆さまを誇りに思うと同様に、皆さまにも、本学の卒業生であることに誇りを持って、理想高く歩んで頂きたいと願っています。
これからの皆さまの輝かしい未来をお祈りして、お祝いの言葉を結びます。

ご卒業、まことにおめでとうございます。

平成28年3月23日

お茶の水女子大学長
室伏 きみ子

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