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2011年オープンキャンパス 学長挨拶

2011年10月11日更新

本日は、ようこそお出でくださいました。
例年、オープンキャンパスは7月におこなって参りましたが、3月の東日本大地震の影響と節電対策のために今年はこの時期にいたしました。被災された方々に謹んでお見舞いを申し上げます。一日も早い復興のために、教育研究機関としての役割を果たして参りたいと考えております。

全学を挙げてこの日のために準備してまいりましたので、この機会に、皆様がお茶の水女子大学の「学びの空間」で充実した時を過ごしていただけましたら幸いです。

お茶の水女子大学は、1875年(明治7年)に設置された、東京女子師範学校を前身としています。今日まで、136年の女子高等教育の歴史をもつ大学であり、さまざまな分野で活躍する優れた女性を社会に送り出してきました。とくに全国に優秀な教員を送り日本の教育の質の向上に貢献してきたと自負しております。また、研究の面では、日本初の女性理学博士や農学博士、日本の女性として初めて国際的に活躍した研究者などの研究の先駆けとなった人々がここで学びました。
そして、教育機関を創設した人々もいます。東京女子大学の開学に力を尽くし、後に東京女子大学の学長となった安井てつ先生、現在の共立女子大学の創設に携わった鳩山はる(春子)先生、現在の日本女子体育大学を創設した二階堂トクヨ先生などです。また、卒業生の会である桜蔭会は、桜蔭学園を設立しました。かつてはこのように、教育・研究の分野で活躍する卒業生が主でしたが、近年の卒業生の進路は、教育や研究に限らず、幅広く、公務員などの公的機関、企業、メディアなど、きわめて多様に、また、国内外で活躍するようになりました。卒業生の活躍によって、この大学に対する高い評価は今日に至るまで変わることはなく保たれています。この伝統と実績をこれからも大切にして行きたいと思います。

評価ということで申しますと、7年前(2004年)に、国立大学が法人化されてから、すべての国立大学がその活動に対する評価を受けることになりましたが、お茶の水女子大学は、国立大学法人を評価する委員会から、教育、研究、社会貢献や国際交流活動について、高い評価をいただいています。86の国立大学を含めた90の国立の機関の中で、教育については上位グループ13機関の内に、研究については「非常に優れている」と評価された4機関の内に入り、社会貢献と国際交流に関しても、「非常に優れている」とされた2機関の内の一機関として評価されました。

小規模な国立の女子大学ではありますが、この大学が数ある国立大学の中でとくに高い評価を得ているのは、教員の研究能力の高さと教育への熱意に加え、社会状況や国際情勢に敏感に対応することを重視しているからではないかと考えています。特に教育については、学生1人1人の特性を伸ばし、社会状況の変化に対応できる能力を育成するために、新たな取り組みを開始しています。その具体的な内容については、教育担当の副学長からご説明しますが、基本的には、学生が主体性を発揮できる環境を整えること、そして柔軟な思考力を身につけることを目指しています。 

教育のこうした取り組みはお茶の水女子大学の一つの特色ですが、さらにいくつかの特色についてお話しておきたいと思います。
第一に、小規模な大学であることです。これは、学生と教員の距離が近いこと、そして、教員と教員の距離も近いことを意味します。大学の4年間の授業は、ほとんどが少人数の授業です。したがって、学生は授業を通して学生とは勿論、先生方とのディスカッションをする機会が多くあります。また、学生はその都度、自分の考え方を分析し、整理し、発言の能力を高めてゆくことになります。さらに、他の専門の学生や分野の異なる教員の考え方に直接触れる機会も多く、それによって思考の柔軟性や創造性を身に付けることにもなります。先生方もお互いに身近な存在です。お茶の水女子大学のキャンパスはここだけですので、このキャンパスに大学の全ての学部、文教育学部、理学部、生活科学部の三学部が揃っていることから、専門を異にする先生方が日常的に交流できる環境にあります。そしてこの状況が、文理融合のプログラムを効果的に実施する基盤になっています。例えば、文理融合リベラルアーツのテーマの一つである「生命と環境」を考えてみても、私たちが解決すべき課題そのものは、文系でも理系でもなく、総合的なアプローチが必要ですが、このキャンパスでの先生方の交流はこれを無理なく可能にし、このことはまた教員にも学生にも新しい分野や新しい研究課題に取り組むことへの意欲をかき立て、研究の先進性を促してもいるのではないかと思います。

第二の特色は、この大学の卒業生には、専門を活かした仕事についている人の割合が高いことと、生涯を通して仕事を続けている人の割合が、他の大学出身の女性より高いことです。それは本学の教育の成果といえますが、専門性の高さという点では、この大学には学部生2000人に対して大学院生が1000人在籍し、学生の3人に一人が大学院生ということになり、「高度な専門を学ぶ風土」があります。
第三の特色に、本学の地理的環境を挙げておきたいと思います。この大学は、東京の「文京地区」と呼ばれる地域にあり緑も多く、アカデミックな雰囲気に満ちた静かなキャンパスです。しかも山の手線の内側にあって交通の便が良く、生活にも便利です。したがって、この大学での学びの環境は、「勉学」をたのしみ「生活」を充実させ、「静」と「動」とを演出できる場なのです。

ところで、申すまでもなく本学は女子大学ですが、女子大学で学ぶことのメリットはなにか、とよく聞かれます。学生の感想で共通しているのは、自由闊達な学生生活が過ごせる、というものです。授業や学内での活動では何をするのも女性ですので、お互いにさまざまな役割を割り振り、役割を果たす訓練をすることになりますが、それによって新しい自分を発見した、という話も聞きます。あるいは、身近に女性の先輩が多くいることで、自分の将来を多様に描くことができるし、相談もできて心強いという学生もいます。
これが学生の率直な感想だと思いますが、大学としては、日本の女性の活躍状況を考えた時に、優れた女性が社会で活躍できる環境を整え、それを提案することが重要な使命であると考えています。これは単に女性の役職者の割合を増やすということを意味しているのではなく、人間が真の意味で豊かに生きる社会を築くことをも意味すると考えるからです。
そのために、お茶の水女子大学では、リーダーシップ教育に力を入れていますが、その理念は、確かな知を身につけ、他者を尊重し、寛大な心をもつことです。専門的な知識を基盤に、人間として高い見識をもった学生が育って欲しいと願っています。それが、今の日本のこの状況の中で極めて大切なことと考えるからです。

この講堂のことを少しご説明いたしますと、皆様がいらっしゃいますこの建物は、今らかおよそ80年前、1932年に建設された、本学で最も古い建物です。国の「登録有形文化財」として登録されてもいますが、実はこの建物は、1923年の関東大震災の9年後に建てられたものです。かつて、校舎は、お茶の水女子大学の名前の由来となった御茶ノ水の地、今の湯島にありましたが、関東大震災で全焼し、新たにここ大塚に校舎を建設した時の建物で、そのために耐震に配慮されています。この他、このキャンパスには新旧合わせて35の建物がありますが、いずれも耐震診断を行い、安全性の確認をいたしました。今後さらに安全対策の強化に努めて行きたいと考えております。そして、この講堂では、入学式と卒業式をおこないますので、お茶の水女子大学の学生は、皆、この講堂の入学式で学生生活を始め、研鑽を積んで、この講堂から社会へと歩み始めます。この講堂は「きいん堂」と呼びますが、「徽」は徽章の徽、つまり「しるし」で、「徽音」の意味は、美しい音、よい言葉、立派な教え、美徳、などを意味します。その意味で、ここは、学生にとってお茶の水女子大学での学びを象徴する空間といえます。 

春に、皆様をここにお迎えすることを楽しみにしております。
本日は、まことに有難うございました。

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