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新制大学60周年記念式典 学長挨拶

2009年10月10日更新

本日は、大勢の皆様のご参加をいただきまして、お茶の水女子大学創立60周年記念式典を挙行することができ、まことに光栄に存じます。
新制大学の創立記念日に合わせて5月末に行う予定にしておりましたが、新型インフルエンザのために、延期いたしまして、皆様には大変ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申し上げますとともに、本日改めて記念式典を開催できますことを深く感謝申し上げます。

昭和24年、1949年に、お茶の水女子大学が設置されて以来、60年間にわたって、多くのご支援をいただき、国立の女子大学として、これまで歴史を刻んでまいりました。
お茶の水女子大学の前身である東京女子高等師範学校が、単独で、国立の女子大学としての設置を認められるために、当時どれほど多くの議論があり、努力がなされ、困難があったかを振り返って見ますと、いっそうその存在の重みを感じます。
「東京国立女子大学設置認可申請書類」(当時は、このような名称で申請が検討されていました)には、次のようなことが記されています。

  • 我が国に最も欠けていてその養成を切望されているのは、各分野に亘って指導的地位に立つ女性 である。
  • 文化が進めば、指導的人物は単に総合的な教養のみを習得したものの間からは求め難く、その教養には専門的考究の裏づけを必要とする。


女性リーダーの育成が急務であること、そしてそのためには、教養を身につけることに加え、専門教育を受けた女性が必要であり、その育成を第一義とする教育機関の意義と、それを実現せんとする決意が、そこには明確に示されています。
そして、この使命は、60年を経た現在も、変わることなく、あるいは、いっそう重要さを増しているようにも思われます。それは、この60年間に経済的成 長とその限界を経験し、あるいは、科学技術の進歩の功罪を経験することを通して、多様な価値観や、確かな教養を基盤とした専門性がいかに重要であるかを、 私たちは改めて認識させられているからです。

新制大学となってから今日まで、この大学には二度の大きな変革の時期があったと私は理解しています。
一つは、博士課程の新設であり、もう一つは、国立大学の法人化です。
お茶の水女子大学では、昭和38年(1963年)から昭和41年(1966年)にかけて大学院の修士課程が、そして昭和51年(1976年)には博士課程が新設されました。
とくに博士課程 人間文化研究科は今から33年前に設置され、一昨年、人間文化創成科学研究科と名称を変更しましたが、創設当時の理念は、既存の学問領 域を超える新たな学問の開拓を志向することにありました。その伝統は、現在も引き継がれ、学際的先進性を追及する大学院として多くの優秀な学生を育て、社 会に送り出しております。そして、この学際的研究を可能にしているのは、お茶の水女子大学の大学院が文系理系を含めて三学部を一つの研究科として統括して いるからでもあります。
年二回、3月と9月に学位授与式を行い、毎年約40名の女子学生に博士の学位を授与しています。そのうちには、本学大学院の国際性を象徴するように、多 くの留学生が含まれています。また、この大学院への入学者のほぼ4割が社会人経験者であることも、特徴的なことといえます。つまり、お茶の水女子大学は、 新たな研究分野を切り拓く先進的な研究を行うと同時に、多様なキャリアパスに対応できる大学として機能しています。
現在のこの流動的で不透明な時代に、新しい方向性を探り、多様性を実現することが求められ、女性の活躍がこれまで以上に求められる時代にあって、国立の女子大学として、本学の設立時の使命に勝るとも劣らない機能を果たしていると自負しています。

もう一つの大きな変革は、周知のように、平成16年(2004年)に、国立大学が法人化されたことです。
法人化によって、国立大学は、運営面で、「自律性」、「民間の発想」、「学外者の参画」、「第三者評価」が新たな要素となりました。従来の「教育研究評 議会」に加えて、学外者を含む「経営協議会」を新たに置き、学長と理事からなる「役員会」が大学の主要な事項を決定する運営形態をとるようになりました。
また、6年間の中期目標・中期計画に即して活動し、報告し、評価を得ることにもなっています。
今年度、平成21年度は、その第一期中期目標、中期計画の最終年度に当たりますが、今年3月に、第一期の中間評価が公表され、教育、研究、社会貢献・国 際交流、業務運営などの項目全体として、お茶の水女子大学は極めて高い評価をいただきました。これは、法人化に当たって中期目標・中期計画案を策定した当 時の本田和子学長によって、高邁な理念と明確な指針が示されたこと、そして郷通子前学長がこの計画を加速的に遂行した結果であるといえます。
第一期中期目標.・中期計画期間の最終年度に当たる今年度、これまでの業績と成果をどのように次の第二期の大学運営に反映させてゆくか、が現在の大きな課題であり、この点を心して臨んでまいりたいと思います。

大学は、今、明らかに苛烈な競争にさらされています。それは、大学間の競争であり、また経営という点では企業との競争でもあります。そのために、大学で は、教育の在り方を問い、研究資金の獲得に努め、事務組織を見直すなど、さまざまな取り組みを進めております。ですが、その際に忘れてはならないのは、私 たちの役割が、教育研究機関として次世代を担う「人」を育て社会に送り出すことであり、人間の社会の発展に寄与することだということです。
Sapere aude!というHoratiusの言葉をカントは啓蒙の標語として使用しました。経済の流れの中で、あるいは社会の流れの中で、それに身を任せるのでは なく、確かな知識を持って、それを駆使し、自らの状況を判断し、変革し、社会に貢献しうる、高い見識を持った女性を多く育成すること、そして、学問の発展 と国際社会の発展に寄与することを大学の使命と考えて、今、次の60年に向けて、第一歩を踏み出して参りたいと思います。

これまでの皆様のご支援とご指導に心から感謝申し上げますとともに、引き続きのご協力いただきますようお願い申し上げます。
本日は、まことに有難うございました。

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