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学長メッセージ

2020年4月1日更新

 新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大する中で、新しい年度を迎えました。このウイルス感染は、思いも掛けない速さで世界各地に広がり、社会に大きな影響と不安を与えています。克服のための様々な努力が日々続けられていますが、なかなか先が見えないのが現状です。
国の内外で、この感染症によって亡くなられた多くの方々のご冥福をお祈り申し上げますと共に、ご家族やご関係の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。また、療養中の方々の一日も早いご快復をお祈り申し上げて居ります。 

 皆さまは、今回の新型コロナウイルス感染症の拡散を目の当たりにされて、人々の活動や社会の仕組みが、如何に国境を越えたものとなっているかを実感されたことでしょう。それと共に、私たち「地球市民」にとって、「国」や「地域」と言った限定された範囲に住む人々のみの利害に拘泥することが如何に無意味であるかということも、考えさせられたことと思います。今回の新型コロナウイルスの感染拡大という不幸な出来事は、私たちが向き合わなければならないグローバルな社会での課題について深く考え、その打開策を探るための機会ともなりました。 

 皆さまも気付いていらっしゃるように、私たちは人類全体として取り組まなければならない様々な課題に向き合って、それらの課題を解決するために、努力しなければならない局面に立っています。最近、皆さまは、「SDGs」という言葉をよく聞かれると思います。これは、Sustainable Development Goalsの略で、2001年の国連サミットで策定された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)」の後継として、2015年の国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標で、2030年までに達成することを目指したものです。保健、教育等のMDGsで未達成のまま残された課題や、環境、格差の拡大など、新たに顕在化した課題に対応するために、17の目標(ゴール)と169の指標(ターゲット)から構成される新たな持続可能な開発目標を定めたもので、多様性を包摂する社会(inclusion)と、地球上の誰一人として取り残さないこと(leave no one behind)を理念としています。このSDGsは、発展途上国、先進国を問わず、全ての国を対象として、世界中で取り組む普遍的な達成目標であり、日本でも積極的に行動を広げつつあります。具体的には、あらゆる場所のあらゆる貧困や飢餓の解消、人々の健康的な生活や福祉の確保、全ての人への包摂的かつ公正な教育機会の確保、ジェンダー平等、持続可能な水やエネルギーの確保、地球環境への負荷の低減、平和と公正の実現など、2030年に向けて全世界が直面する課題を包含したテーマの集合となっています。 

 お茶の水女子大学では、後でも述べますが、144年余の歴史の中で、性別、年齢、人種、国籍、文化、宗教などの異なる多様な人々と互いの違いを認め合い、尊重しながら、協働していくことを大切に、お茶の水女子大学としての特色ある教育文化を育んで参りました。その精神が、今後ますます重要になって来ることは間違いありませんし、まさに、今世界が目指しているSDGsの理念を実現するための努力がなされてきたと言っても過言ではありません。本学に集う全ての方々には、地球と人類の未来を持続可能な幸せなものにするために、これまで積み重ねてきた成果の上に、多様な実りを実現して下さることを期待しています。誠実に課題に取り組み、社会からの期待に応えて、明るい未来を切り拓くために、挑戦を重ねて頂きたいと願っています。

 ここで、少しだけ、お茶の水女子大学の歴史と教育・研究の特色について述べさせて頂きます。
お茶の水女子大学は、女性のための日本初の官立高等教育機関「東京女子師範学校」として1875年に創設され、その後、国の内外から本学に入学してきた若い女性たちのために、学びの道を切り拓いて来ました。そして、本学で学び、自分自身を磨いた卒業生たちは、女性が社会で活躍することさえ困難な時代から、学術・研究、教育、産業、行政、報道など、多様な場において努力と実績を重ね、周囲の方々からの厚い信頼も得て、後に続く女性たちのために活躍の場を開拓して来てくれました。海外で活躍する卒業生も少なくありません。

 2004年に国立大学が法人化されましたが、お茶の水女子大学は果たすべき役割を再確認して、『学ぶ意欲のある全ての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する』とのミッションを掲げました。学びたくても学ぶことのできない開発途上国の女性たちをも含め、世界中の全ての女性たちの夢の実現を支援することを目指し、当時、教育体制が崩壊していたアフガニスタンの女子教育支援をはじめとして、アジア・アフリカの女性や幼児のための教育支援と研究交流を、今日まで継続しています。その中で、若い女性たちが、多様な文化と異なる価値観や考え方を持った人々と深く理解しあい、互いに切磋琢磨しながら自らを成長させて行くことができるよう、現在までに32カ国79大学との間で交流協定を結び、国境を越えた学びと研鑽を実現するための環境を整えて来ました。

 同時に、大きな変動の時代を迎え、数多くの課題を抱えている社会において、若い女性たちが自らの道を見出し、人々の幸せに貢献できるよう、「リベラルアーツ教育」、「グローバル教育」、「リーダーシップ教育」など、特色ある教育システムを構築し、継続して豊かな学びの場を提供してきました。
また本学では、その歴史の中で、自然や生命の営みとその仕組み、社会における人間の在り方やそれを支える制度、人間生活を支える科学・技術の開拓や制度・理論の構築など、幅広く多様な学術研究が行われています。それらの教育・研究を通して、広い知識と深い探究力、豊かな想像力を備え、公共人としての責任感を持って日本と世界の未来を担う優れた女性たちが育っています。

 2016年度から、国立大学法人は「第三期中期目標・計画期間」に入りました。本学ではこれを機に、本学の大きな目標である「グローバル女性リーダーの育成」に加えて、「人が一生を通じて心身ともに健康で幸せに暮らすための研究と教育を推進する」ことを新たな目標として、「ヒューマンライフイノベーション開発研究機構」を設置しました。これは、2015年に新設した「グローバル女性リーダー育成研究機構」と双璧となる文・理の壁を越えた研究機構で、その中に、「ヒューマンライフイノベーション研究所」と「人間発達教育科学研究所」を設置し、少子高齢社会における多様な世界的課題の解決に向けた研究を推進しています。

 また、2019年3月には、本学の理念に共感下さった滝久雄さまをはじめとする多くの方々からご支援を賜り「同窓会コモンズ」を包含する『国際交流留学生プラザ(Hisao & Hiroko TAKI PLAZA)』(隈研吾氏設計)が、正門脇に完成しました。同プラザが、留学生、海外からの研究者、一般学生、生徒、児童、同窓生、教職員、そして地域の方々などが共に集い、互いの文化や考え方を学び合い、研鑽する場となることを願って居ります。さらに、これまで本学が実施して参りました社会人のリカレント教育やキャリアアップのためのプログラムをさらに充実させ、企業の皆さまとの協働事業としての「連携講座」も、ここを拠点に開始しました。また、日本の古典芸術の発信の場としても、同プラザを活用したいと考えて居ります。

 これからも、本学が刻んできたこれまでの伝統を引き継ぐとともに、大きく変化する社会の動きにも対応した学びと研究の環境を整備して、将来の社会をリードし、新たな社会的価値を創造する女性たちの育成に努めて参りたいと考えて居ります。さらには、同じキャンパス内に保育園から大学院までを備えている特色を活かして、人が一生を通じて健康で幸せに暮らせる社会を創るための教育・研究を推進し、豊かな夢を実現できる社会を創るために貢献できる大学であり続けたいと願って居ります。

2020年4月1日
お茶の水女子大学長 室伏 きみ子

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