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全学教育システム改革推進本部

心理臨床学の授業を振り返って

青木 紀久代(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 人間科学系 准教授)

 本当は、講義はとても苦手です。話が下手だし、咳が出やすく、旧校舎では、チョークの粉とホコリで何度も授業を中断しました。それで小さな部屋でもマイクがほしいし、座りたいし、短い時間でも水を持ち歩きます。やる気がなさそうに見えると思います。そんな私が、楽しく、それなりの充実感を持って半期終えることができ、受講者には感謝しています。さて、この授業で試行錯誤しているところは、次の4点です。

1 心理臨床学は、「聴く」ということが大前提の授業です。心理臨床家は、クライエントが話している間に、いろいろな想像を巡らして考えますが、結局は、相手の話す順番にしか、情報は入ってこないのです。講師の語りの中から、大事なものを選び取って書き留める体験と近いのです。最初にこのことを契約して、半期の授業を開始します。
2 それを基本にして、体験的な知を言葉で理解することの困難さを緩和するために、短時間のワークを取り入れます。話のテーマに合わせて素材を用意しておき、ロールプレイや、臨床状況における呼吸や姿勢を再現して行きます。
3 毎回リアクションペーパーを提出してもらいます。全体の理解度を確かめながら、授業のコメントを作ります。個別に答えた方が良いものは書き込みをちょっとしてから、全員に返却します。
4 知識の習得という教育課題があるので、教科書の単元ごとに重要用語・テーマをセレクトし、該当頁も書き込んだ振り返りペーパーを配布します。自分で書き込む形式になっていますが、チェックはしません。自己学習サポート資料として提供し続けます。

どんな授業をしてみたいか:
 ところで、自分が学部の学生のときに受けた今も記憶に残る教育学の授業があります。自分は専門ではないので、知識的な達成は低かったと思うのですが、とにかく自分なりの思考作業の達成感があったのです。題名に惹かれて紛れ込んでしまった授業で、友達もいないので、続かないだろうと思っていたのに、ついつい、全部出席してしまいました。先生の語りはそんなに上手くないのに、つぶやきの断片がいつも自分の思考を刺激して、授業が終わってもいろいろと教育について考える課題が残されている、そんな授業でした。出席も一度も取られたことはありません。遅れて始まったり、休講もありました。パワポも配付資料も無し。学生の相手に時々うんざりするような素振りさえ見せていました。今の授業評価用紙だと、あまり良い評価にならないかもしれません。でも、何か伝わるものがある。Something moreなものがあるのです。「どうしてかわからないが、次がどうなるか気になって、つい授業に出てしまう」という項目なら、「非常に良く当てはまる」、そんな授業でした。
 私の方は、まだまだ発展途上なので、先は長いですが、こういう授業がいつかできるようになりたいなと思っています。

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