スピーチ等

平成27年度 大学院入学式告辞

 307名の新入生の皆さま、ご入学おめでとうございます。
 ご家族やご関係の皆様にも、謹んでご入学をお祝い申し上げます。
 また、御来賓の皆様には、お忙しい中、ご臨席を賜りまして、まことに有難うございます。

 今年度は、中国、韓国、台湾、タイ、ベトナム、マレーシア、アフガニスタンからの42名の留学生の方々をお迎えしています。この会場に、日本の国旗と共に、留学生の方々のお国の国旗も掲げてありますが、毎年、国境を越えて、いろいろな国からお茶の水女子大学大学院に留学生をお迎えできますことも、私たち教職員にとって、大きな喜びです。様々な国から、本学で学問・研究の道を究めたいとの意欲を持って留学してきて下さる方々を、私たち教職員は、心から歓迎します。

 学部の4年間の学びを経て、あるいは学部と大学院博士前期課程の6年間の学びと研鑽を経て、皆さまは今、希望に溢れて新たな一歩を踏み出そうとしていらっしゃることと思います。どうか、お茶の水女子大学の豊かな学びと研究の環境を活かしつつ、それぞれの分野で、学問・研究を究め、将来は是非、世界に向けて飛躍して頂きたいと思っています。
 意欲を持って学問・研究に励む皆さまが、研究を順調に進め、成果を挙げることができるように、お茶の水女子大学の教職員は、皆さまの努力を応援し、大学の制度やキャンパスの設備の整備に努めます。くれぐれも心身の健康に留意して、楽しく学問・研究を続けて下さい。

 お茶の水女子大学の歴史は、日本初の女性のための高等教育機関として1875年に「御茶ノ水」の地に東京女子師範学校として設立されたことに始まります。その後140年にわたる歴史の中で、数多くの優れた女性教育者や研究者を輩出して来ました。
 1949年に新制大学としての「お茶の水女子大学」が発足してから、1963年に大学院修士課程が、1976年に博士課程が設置されました。
 本学の大学院では、専門性を深めると同時に、分野横断的な視点に基づく教育と研究を進めることで、時代をリードする学術研究や公教育を担い、それと共に、日本と世界の様々な課題に取り組み、課題解決に向けて貢献することの出来る人材を育てることを目標としています。そのために、教職員は、本学独自の多様な教育・研究のプログラムを構築して、新たな学術的価値の創造を目指す努力を続け、これまでに21世紀COE(Center of Excellence)やグローバルCOE事業を実施してきました。現在は、世界で活躍できる女性博士人材育成のための大学院博士課程教育リーディングプログラムが推進されています。
 毎年、修士課程からは約250名、博士課程からは約60名の修了者が社会に巣立っていきます。修了生の就職先は、企業やその研究所、初等・中等学校、大学、国・公立の研究所、府省や県庁・市役所等の行政機関、裁判所などの司法機関、テレビ局や新聞社などの報道機関、独立行政法人や社会福祉法人などと様々ですが、修了生たちはそれぞれに多様な場で活躍し、周囲からの信頼も集めて、後に続く女性たちのために道を拓いてくれています。また、海外の大学や研究所等に留学したり、博士研究員として研鑽の場を求めるなどして、数多くの修了生が、さらに上を目指して自己研鑽に励んでいます。

 女性が学術研究を行うことが困難な時代から、本学の卒業生は広い視点に立って、国際的に活躍してきました。例えば、わが国の女性科学者として、米国留学を実現し、初めて海外の学術誌に論文を発表して、初の女性理学博士となった保井コノさんや、女性で初の帝国大学生となり、二人目の女性理学博士となった黒田チカさん、また、第2次世界大戦前後の困難な時期にフランスに渡って、ジョリオ=キュリー夫妻の許で国際的な女性物理学者として活躍した湯浅年子さんーこの方は日仏両国にて学位を取得しています、帝国大学で無給の副手として研究を続け、初の女性農学博士となった辻村みちよさんなどを先駆けとして、現在に至るまでに多くの学者・研究者が育ち、国の内外で活躍しています。
 わが国初の女医として知られている荻野吟子さんや、英国留学の経験を経てシャム国の教育に尽力し、その後東京女子大学の2代目学長を務めた安井てつさんも、本学の卒業生です。
 現在も、様々な領域で活躍している女性たちの出身大学・大学院を見ると、本学出身の方が多いことに驚かされます。先輩たちの活躍は、後に続く若い方々にとって、とても力強い後押しとなってくれるでしょう。

 2004年に、全ての国立大学が国の組織から独立した「国立大学法人」となりましたが、その際に、お茶の水女子大学は、国境を越えた研究と教育文化の創造と、世界中の全ての女性たちの夢の実現を支援することを目指して、『学ぶ意欲のある全ての女性にとって、真摯な夢の実現の場として存在する』との標語を掲げました。そして、学びたくても学ぶことのできない開発途上国の女性たちをも含めて、国籍や年齢を問わず、女性たちの成長と資質能力の開発を支援するための活動を開始しました。世界中の女性たちと学びを共有し、多様な文化と異なる価値観や考え方を持った人々と深く理解しあい、互いに切磋琢磨しながら、自らを成長させていくことのできる学園でありたいとの決意を持って、グローバルな女子教育へと舵を切ったのです。
 これまでに、本学の学部と大学院は、世界54カ国もの国々からの留学生を迎えています。また、学生・院生や研究者の交流協定を結んでいる大学も64校に上っています。そして、昨年10月現在で26カ国258名の留学生が在籍しており、その60%が大学院生です。

 グローバル化が進む社会では、複雑性・多様性を経験して多面的に自分自身と世界を見直し、自分とは異なる価値観や考え方を持った人々と深く理解しあうために、対話と実体験を重ねる学びが益々重要になっています。予測不能な未来に備えて、次世代を担う若い人たちが、国の枠組みを超えて、多様な世界の同世代の人たちとのつながりを深め、信頼関係を築いて互いに切磋琢磨することがきわめて重要です。今、お茶の水女子大学では、多様な価値観を持つ女性たちが共に学び合い、共生することによって、自己を磨き、真の国際人として活躍する力を培って行くことを願って、様々な取り組みを推進しています。

 現在、私達を取り巻く世界は、大きな変化の時期を迎えて居り、社会環境が世界規模で変動する中で、人々の価値観や生活基盤が揺らいでいます。
 今年は本学にとって140周年という節目の年だと申しましたが、同時に、今年は第二次世界大戦後70年という、日本にとって、とても大切な節目の年でもあります。日本が70年間にわたって他の国の人々や国土を害することなく、平和を守ってきたことは、世界に誇れる実績だと言えましょう。このことの素晴らしさを、皆さまには、ずっと忘れずにいて頂きたいと思っています。
 様々な国で争いが起こり、また、世界中で、様々な災害が頻発して人々の穏やかな生活が失われる事態が起こり、多くの人々の命が失われている状況がある中で、日々の暮らしが穏やかに続くこと、普通の生活を送ることが出来ること、人々が信頼し合い手を取り合って暮らせることの大切さを、心に刻んで頂きたいと願います。
 また、東日本大震災からの復興は、まだまだこれからです。日本と世界の将来を担っていく皆さまには、弱い立場にある人々への思いやりを忘れず、自分たちに何ができるかを、問い続けて頂きたいと思っています。
そして、皆さまの研究成果が、人々の幸せや、日本や世界の将来のために役立つものとなるならば、そんなに嬉しいことはありません。

 本日入学された皆さまが、このキャンパスで充実した学びと研究生活を過ごされ、広い知識と豊かな想像力を備えて、日本と世界の希望溢れる未来を創造することのできる、優れた女性として成長されることを願っています。そして、それぞれが、独自性の高い研究成果を挙げて、本学の140年の歴史に、新しいページを書き込んで頂きたいと思っています。
 こころと身体の健康を大切になさって、学園生活を思い切り楽しんで下さい。これからの皆さまの実り多い研究生活を心からお祈りして、お祝いの言葉を結びます。

 ご入学、まことにおめでとうございます。

  平成27年4月4日

お茶の水女子大学長
   室伏 きみ子

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