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スリランカにおける
「幼児教育ハンドブック」を用いたワークショップの開催

 
 

 

 

 

【目的】

幼児教育ハンドブック」は、主に現地で活動する日本人に活用してもらうことを主目的として作成したものである。しかし、社会的・経済的レベルが一定水準を越えており、幼児教育がある程度普及し、かつ教員養成のニーズが高まっている国においては、現地の幼稚園教諭を対象としたワークショップにおける「幼児教育ハンドブック」の活用が可能なのではないかと考えられる。

そこで、今回はスリランカを対象とし、「幼児教育ハンドブック」を用いた教員研修を試行し、「幼児教育ハンドブック」の活用可能性について調査を実施した。


(スリランカの現況等については「スリランカ現地調査報告」を参照)

   

【方法】

「幼児教育ハンドブック」の一部(「幼稚園の1日」「健康の指導」「文化的活動の指導」「言語の指導」「数量の指導」「園の環境の構成」)を、馬場繁子氏(スランガニ基金)の協力により、あらかじめシンハラ語に翻訳して冊子を作成し、配布した。

当日は、通訳を介した講義形式で行い、視聴覚教材としてA3版に拡大したハンドブック掲載写真を、紙面またはOHPで提示した。

各テーマの終了時にアンケート調査を実施し、「すでに自身の活動の中で行っているか」、「どう応用できると思ったか」、「説明や写真は分かりやすかったか」、「何を学んだか」などについて主に自由記述式で回答を得た。また、ワークショップの最後には討議の時間をとり、質問やスリランカの保育への応用等について話し合った。


   

<プログラム概要>

時間

テーマ

内 容

9:15-9:30

開会式

 

9:30-11:00

日本の幼稚園の一日

日本の幼稚園の一日を紹介しながら、子ども中心の保育の大切さ、統合的視点で保育を組み立てることの重要性について説明する

11:00-12:45

文化的活動の指導

日本の伝統的文化である七夕の行事を紹介しながら、製作活動を行い、自国の文化的活動の指導の活動展開へのヒントを与える

12:45-13:15

昼食

 

13:15-14:30

健康の指導

日本の衛生環境を写真で提示しながら、トイレの必要性や保育室のごみ箱の必要性について説明する

言語の指導

絵本の読み方についての配慮事項について説明する

14:30-16:00

討議と

アンケート

ワークショップに関する質問や、スリランカの保育でできることを話し合う

16:00-16:10

閉会式

 

 



<開催日・場所・参加者>

日時

場所

参加者背景

2005年9月18日

ガンポラ地区

古都キャンディから車で30分ほど入った地に開かれている幼稚園の教員。自営業者として幼稚園を運営し、保育にもあたっている(1園1名の教員)教員が多い。

ガンボラ地区は、スランガニ基金が支援地域の中で、最も活発な教員互助組織(スモールグループ)を形成している地域である。

2005年9月20日

コロンボ市内

コロンボ市には様々な形態の幼児教育施設が多数ある。ガンボラとは異なり、1園1名体制ではなく、園長と教員が別れている。

スランガニ基金の呼びかけによって、スモールグループを作ろうとしているが、今回のワークショップが、2回目の会合となり、人間関係がまだできあがっていない状況であった。


【結果】

<参加者の年齢、経験年数など>

年齢:30代前半から後半

経験年数:8〜9年

研修の受講回数:約12回

ガンポラ地区とコロンボ地区間で差は見られなかった。

 

<各テーマに関する感想>

「幼稚園の一日」

コロンボ地区では、「子どもが幼稚園でどのように一日を過ごすか、教師がそのためにどんな準備をしておくか」を学んだとするコメントもあり、教師が子どもの活動環境づくりをするという観点が新しい発見であったようである。

それに対し、ガンポラ地区では「日本とスリランカの幼稚園はほとんど同じ」というコメントが非常に多く見られた。これは、ガンポラ地区では、すでにスランガニ基金による協力を8年近くにわたって受けており、日本の幼児教育についての知識を得て、そこから多くのことを学んでいたという素地があったためと考えられる。
 

「文化的活動の指導」

「宗教的行事のときに、それにちなんだ飾りを作る」「Wesak(仏教の祭り)のお祝いをする」など、文化的な活動を保育の中で取り入れていきたいというコメントが多くあった。また、実際に飾りを竹に飾った実践体験から、「簡単な工作を教えることにより子どもたちの創造性を刺激する」「グループ遊び」「紙を使った飾り」など、創造活動の意味も感じ取ったようであった。さらに、「子どもたちは宗教的お祈りの時には自然と伝統的振る舞いをする。それに従って子どもは文化に馴染んでいく」のような、文化的活動を保育活動に取り入れることの本質的意義が、特にガンポラ地区の教員の記述から見られた。
 

「健康の指導と

園の環境構成」

「歌を通して良い習慣を教える。物語で子どもたちの身体的・精神的成長を促す」「清潔の大切さを子どもに手伝わせながら教える」など、子どもが楽しいと感じながら体験して基本的な習慣や考え方を身につけていくことに言及した参加者が多かった。また「子どもたちが登園する前に教師が教室を準備しておけば、自分から何かをしたくなるだろう。」「幼稚園を子どもたちにとって魅力的な場所にする」など、子どもにとってふさわしい環境を準備することの大切さも学び取ったという意見が多く見られた。
 

その他

「とても有意義であった」という意見が大多数を占めた。また「他の教師と多くの意見を交換できた」などの記述が多く見られ、多くの園が園に教師1名という状況の中で、意見交流の場を求めている状況がうかがえた。それは、自身の活動をよりよいものにしていきたいという意欲の現れであると考えられ、それは「この種のワークショップが今後も継続されることを期待」「このワークショップを通じて自分たちの誤りを正すことができた」「今回学んだアイデアを園で使ってみたい」などのコメントからもうかがえた。
 






【まとめ】

現場の教員に2回ワークショップを開くなかで、恐れていたことは、設備面で日本との違いだけに目がいかないだろうかということであった。しかし、その違いよりも、むしろ子ども中心の教育手法に目が向けられ、吸収しようとする姿がアンケート調査からも見られ安堵した。

その一方で、ワークショップ開催において留意すべき点が認められたのも事実である。「幼稚園の一日」の研修に関し、「幼稚園では時間割に従わないこと」を学んだ、というコメントがコロンボ地区で数人から寄せられた。日本の自由保育の形態を紹介したのだが、これは日本の教育の歴史および文化的背景の中で育まれてきたものであり、必ずしも全ての国において最適な保育形態であるとは言えない。その国の中でその国にあった方法を選び発展させていけばよいのである。我々はこの形態が全てであると提示したつもりはなかったのだが、時間が限られ、通訳を介した研修の中で、必ずしもこちらが意図したことがそのまま伝わってはいないことを実感した。

全体としては、ワークショップの成果は大きく、A3版に引き伸ばしたカラーコピーも、電気のないところでも使えるという点、ビジュアルなものがあることによってより理解がすすんだことを感じる。現場の教員にとって、理論面と実技面両方があるということも大切な要素となることを感じた。ハンドブックがシンハラ語に訳されたものが教員の手元にあったということも、ワークショップ成功の大きな鍵であったと考えられる。


お茶の水女子大学
開発途上国女子教育協力センター

乳幼児保育協力研究実践部門


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