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全学教育システム改革推進本部

講義でかんがえること

太田 裕治(人間文化創成科学研究科研究院基幹部門 自然・応用科学系 准教授)

 生活科学部人間・環境科学科で人体解剖学を担当しています。学期末に学生が試験を受け成績がつくように、いまはどの大学でも、講義をする側にも成績がつくようになりました。これが授業評価アンケートです。この講義も、本年度で5回目ですが、今まではそれほど目立って「成績が良」かった記憶がないので、正直驚いています。というのも、この科目は内容の性質上、覚えることが中心の科目であり、どう考えても面白い科目とはいえないと思うからです。しかも、木曜の5・6コマときています(私は魔の時間帯と呼んでいますが)。なんとか学生達を眠らせないために、いままでしてきた工夫をいくつか思い出してみました。

 (1)まず、「塗り絵」方式を採用した洋書を教科書として利用しています。各ページ一面を使って解剖図が白地図のように描かれ、臓器など各器官の名称が英語で書かれています。器官と、それに対応する英単語を同じ色で塗り分けることで視覚的に捉えやすく、覚えやすいように工夫されたテキストです。「塗り絵」といっても子供向けの簡略化された物ではなく、正確で緻密なもので、世界中で親しまれています。(ただ、色を美しく塗り興じるあまり、肝心な用語は全然覚えていない、という状況に陥る学生も出たりしますが。)また、英語で書かれていることで、語学の勉強にも役立つところも、評判が良い要素です。

 (2)プロジェクタを効果的に利用しています。現在、プロジェクタはほぼ全ての教室に据え付けられているので、講義でお使いの先生方も多いことと思います。講義には大変効果的な道具ですが、スクリーンを降ろすと板書ができないのが欠点のひとつだと思います。(スクリーンを横斜めにずらして設置して頂けると助かるのですが。)そのため、タブレット型PCを利用することにしています。PCの画面上(解剖図上)に直接、特別なペンで文字や矢印を書き込むと、それがプロジェクタにも投影されるという仕掛けです。こうすれば、集中を途切れさせずに板書ができます。

 (3)マイクの利用。この科目は、人間・環境科学科では必修科目であり、人・環1年生は全員受講します。それに加え、理学部、生活科学部文系、舞踊コースなどの学生にとっても興味深く、他学科受講が少なくありません。ですから、教室はほぼ満員状態となるため、小さい講義室ながら、いつもマイクを使用し、しっかり声が届くようにしています。

 (4)成績評価は、毎回行う小テストの平均としています。基準が明確で、達成度が確認でき、出席を促す意味でもたいへん有効な方法です。今はプリンタがたいへん安価になり、案外手軽に印刷できるツールとなりましたので、これを利用して試験問題を印刷して持っていきます。とくに、カラー刷りで試験問題を印刷していくと、見栄えがよく、意外性があるのか、うけがよく、楽しそうにテストを受けています。

 このような工夫は、とくにこの講義にかぎらず、他の科目でもいろいろ考えて取り入れています。きちんと教育効果をあげることを意識して講義を構成するという視点を忘れないようにしています。

 将来的にはさらに一歩踏み出す必要も感じています。まだ実行には移していませんが、方法を検討している大きな項目として、学生側のニーズを把握しそれを講義内容に反映させることを考えています。まず、多様な学習動機を持った学生が、講義に何を期待しているのかを明確にする必要があります。講義する側がそれを把握していれば、それぞれに有用な内容を提供できると考えています。各学生が、どういう学習プランの中でこの講義を位置づけているのかを講義する側も聴く側も明確にし、受講後確実に到達目標に近づいているのを示すことが必要でしょう。授業アンケートはいまではどこの大学でも行っていますが、たんに、人気のバロメータに終わるのではなく、学生と教員間のコミュニケーションを図り、高い意識で講義に臨むために役立てていくとよいと思います。

 このようなことを各講義ごとにいつも考えながら、同時に、学科単位での取り組みにも反映していこうと考えています。現在その一環として試験的に行っていることに、学生との定期的な懇談会や、OGによる講義などがありますが、いずれも学生の参加意欲が極めて高く、発展の可能性を大いにもっていると思われます。いままでの大学の講義はまだまだ一方向的な知識の伝達であったと思いますが、これからは、個々の科目で、明確なモチベーションに基づいた学習、明確に効果を提示できる教育、という双方向の意識が高まることにより、次は、学科が提示する一連の科目群、その設計につながっていくのでしょう。こういった考えがFD活動であると理解しています。

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