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全学教育システム改革推進本部

「物理数学」の授業の進め方

奥村 剛(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 自然・応用科学系 教授)

 以前に依頼を受けた時に無理を言って引き延ばしていただいたら、2006年度分の最後のエッセーを書くことになりました。そういう事情から、2007年度分のアンケートの結果を見る機会がありました。確かに、2006年の「物理数学Ⅱ」のアンケートはぱっとみても平均を上回っている気がしたのですが、今回は平均と区別がつきません。私としては授業をあまり変えたつもりはないので、2006年度は学生さんとの相性が良かったのだと思います。というわけで、私にこのような文を書く資格はあまりないと思うのですが、この機会に私なりの工夫を紹介したいと思います。

 今回の対象科目「物理数学Ⅱ」は、物理学科の1年生後期の必修科目であるため、20名程度の少人数の学生を前に行っています。この程度の人数では、工夫を凝らした入試にもかかわらず、入学してくる学生のバックグランドや雰囲気はどうしても(統計的)ゆらぎを持つため、毎年同じように授業を行うと、前述のように年によって学生からの評価もそれなりにゆらぐことになるのでしょう。もちろん、そのような年ごとの違いを感じ取って最適の方法で臨むべきなのでしょうが、「物理数学Ⅱ」という科目は必修科目でもあり、どうしても多くのことを盛り込んで駆け足で進めなければならず、そうした自由度が低いのが現状です。事実、学生から直接耳にするこの授業についての典型的なコメントは、次のふたつです。「板書量が他の先生の1.5倍くらいはある」。「大学院入試のときに先生のノートが非常に役に立つ」。これらのコメントから推測すると、授業の狙い自体はよく達成されているようですが、授業を行っている最中の学生から良いアンケート結果がでてくるとは思えません(これらと関係があるのかは不明ですが、徽音祭で私の授業のノートが「展示されていた」と聞いたことがあります)。

 「いいわけ」はさておき、物理数学Ⅱという授業は、高校の数学のレベルが高くなったものです。しかし、高校の授業時間のように、学生が問題を自分で解くという暇はありません。それどころか、高校生が確実に自分できる計算はその場で行わずに、途中計算を飛ばして、新しい部分に集中して説明していきます。大学での物理の授業は、程度が高くなるにつれこの傾向が強くなっていきます。ちなみに、「学術的な研究発表」はその極みと言えるでしょう。ところが高校で優等生だった学生は、注意していないと、授業中に途中計算をして私の板書間違いを指摘してくれたりします。これで追いつけるうちはよいのですが、やがて限界が来ます。そこで、私の授業ではことあるごとに、私が省略した計算をその場で始めないで、新しい部分に集中するように繰り返します。物理学科の授業についていくには、こうした話の聴き方を早い段階で習得することは大変重要だと思います。

 しかし、省略した計算をそのままにすると今度は計算力が落ちてしまうので、次週にその部分を宿題として提出してもらいます。ただし、宿題をやりながら必ず授業のストーリーを復習するように、あるいは、そのために宿題をするように繰り返しています。この宿題は毎回採点して授業前に返します。これを繰り返し、授業中に数名の学生を指すようにすると、学生の名前を徐々に覚えていくことができます。全部覚えるまでには6回くらいはかかりますが、学生は自分の名前を私が記憶しているかどうか分りませんから、この名指しはすべての学生の眠気防止に役立っているようです。宿題を採点していると、ある程度は年による理解度の差などにも気がつきますので、多少は授業の進め方にも反映させていこうと努力しています。

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