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全学教育システム改革推進本部

結局、昔ながらのやり方です。

武部尚志(人間文化創成科学研究科研究院 基幹部門 自然・応用科学系 助教授)

このエッセイの「原稿執筆のお願い」には、授業アンケートの結果で私の講義(「初等解析学Ⅱ(全学向け微積分の講義;二年生前期)など」)が「学生の人気の高かった授業」の一つだったとあったが、頂いた結果を見ても誤差の範囲で他の人と同じにしか見えない。まあ「他の人に比べ著しくひどい講義ではなかった」という事だ、と理解しておきます。

そこで天邪鬼だが、「こんなことしても低い評価につながらなかったみたいだなぁ」という点をいくつか書かせて頂く。尚、以下では主に「初等解析学Ⅱ」を念頭においている(こういう基礎的講義は自分の数学的見識の全てが問われるから一番怖い)。

・シラバスをちゃんと書かない。学生さんの反応・理解度を見ながら臨機応変に内容を取捨選択しようとしているのだが、シラバスで進度を決めておくと心理的なバリアが出来てしまうのでやりたくない。もっとも最近は「臨機応変さ」を失いつつあり、反省しているところである。

・あいかわらずの黒板講義。他の人の研究発表や講義を聞いたりする時、「何の話か適当に分かれば良いや」程度の気持ちだとOHPやその類が丁度良い(プレゼンテーションソフトのアニメはついていけない…;作ってる本人は自己満足してるだろうが)。しかし、内容をしっかり身に付けたい時には手を動かしながら聞かないと私は全然駄目。

「初等解析学」のような基礎講義には、聞いた内容を現場で生かせるようにするという目標があるから、手を動かしながら聞いて欲しい。そのため(若い学生さん達を私の脳の程度につき合わせてしまって申し訳ないのだが)黒板でやっている。ただ、「黒板に書く量が多過ぎ!早過ぎ!!」というご注意は頂いており、これではOHPと変わらん、とこれも反省中。

・現代の最先端の研究の動向は…、なんて話はしない。基本的には19世紀に出来ている話だけ。3・4年生向けなら別だが、1・2年生向けの基礎的な講義は、まだ数学が現代的な抽象性=汎用性を獲得する以前の具体的な感覚から始めないと理解しづらい。

私の学生時代(いつか?は秘密)を含めかなり長い期間、大学の数学の講義のスタイルはいきなり "現代" 数学の抽象的な言い方、論理的には正しいが感覚がついていけないような喋り方が主流だった。それが今になって、多くの大学の理工系の先生方の中に、「数学者に数学を教えさせない方が良い」とまでおっしゃる方がいる原因になっている、と私は思う。(最近は数学屋もだいぶ反省しました。)

「この説明なら私が学生時代に聞いても理解できただろうに(仮定法)」と思えるように、数学の手触りの感覚を表に出そうとすると、やっぱり昔の話から説き起こすことになる。でも、「難しい」と言われてしまうので、まだまだ私の修行が足りない。

・やって良かったかな、と思えるのは、二週に一度のペースでレポート問題を出して、そのレポートを丁寧に見て朱を入れること。学生さんの誤解を早めに見つけられるし、「オォ、こんな発想があるんだ!」と楽しませてもらってもいる。学生さんにもまずは好評のようである。

これはお茶大の規模だから出来る話で、もし受講者の数が倍になったらさすがに無理。その意味で、「少人数教育」には感謝している。

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