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全学教育システム改革推進本部

今日の小噺

三原芳秋(語学センター 講師)

 Faculty Developmentということですが、私のような任期付の「授業担当講師」がいったいFacultyというカテゴリーに属するのか、よくわかりません。とはいえ、「学生の評判が良かった」とおだてられると、それは、もちろん、若い男性教員ということで鞍馬天狗のような高下駄をはかされていることは間違いないにせよ、多少鼻が高くなったように錯覚することは、ないわけではありません。そこで、あらためて、学生による教師の通信簿をながめてみました。すると、「『今日の小噺』が面白かった」というコメントに、しばしば出会います。

 もともと「今日の小噺」などというタイトルはなかったはずですが、いつからかそういう通称になった模様。では、これはいったい何かと言うと、授業の頭に5〜10分ほど、時事ネタや週末に観たお芝居の話などに絡めながら、言語や文化に関する(文字通りの)小噺をして時間を潰し、ちょっと遅刻気味の学生もみんな集まったあたりで出席を採ろうという、ただそれだけの話です。実は、お茶大生はあまり遅れてこないので、当初の目的は失われ、しかも興に乗ると15分も20分も喋り散らしたりして完全に自己目的化している、そんな「小噺」の正体は、古色蒼然とした「教養」トークです。去年から大学の教壇に立つことになり、最初に考えたのは、正しい英語をしっかり教えることは当然ながら、やはり「教養英語」なんだから、なにか「教養」じみたこともしてみたいということで、そのささやかな実践として始めたわけです。昨今は、教養英語の授業を商業主義の語学学校に外注する大学がちらほら出てくるご時勢で、それこそ最高学府の「品格」を疑わざるを得ないような情況ですが、はからずもその時流に抵抗しているのかもしれません。なにも独創的なことをしているのではなくて、私自身の学生時代を思い出しながら、英語の先生から聞いた哲学の話や、ドイツ語の先生から聞いた音楽の話や、ラテン語の先生から聞いた神学の話や、そういう「これは、いいなあ」と思ったことどもを、単にマネしてみせているだけなのです。

 「読書ノート」という課外活動もあります。これは、お茶大では前々から実践されていたものを、そのままそっくりマネして始めたのですが、とても気に入っています。自分で読みたい本を選ばせて、一定速度で読み進めながら、定期的に「読書ノート」という形でレポートを書かせるものです。「生まれて初めて原語で一冊読みきるという体験は、忘れがたいものになりますよ」と(本心から)学生をそそのかします。これも、昔授業を受けたことのある、ある温泉好きな独文学の先生がおっしゃっていたことのマネです。出てくる「読書ノート」に、できるだけたくさんコメントを書くことも、楽しいものです。これまた、ある高名な翻訳家でもある米文学の先生がなさっていたことを、非力ながらマネているのです。

 つまり、私のしていることと言えば、かつて自分が「これは、いいなあ」と思った先達の実践を、ただただマネしているだけなのです。ちっとも「リーダー」の風格なんかありはしません。ただ、"develop"とは、"envelop"された包みを解くことなのだとしたら、昔の宝物がどんどん「包んでポイ」されていくように見える今日この頃、自分で良いと思えるものをちょっと包みから出してみせるというのも、それほど悪いことではないかもしれません。みんながみんな引っ張る人で、何を引いているのかもわからずに闇雲に引っ張っているのは、それは、万人の万人に対する綱引きで、結局プレッシャーに負けるのがオチでしょうから、たとえば英語の授業を通して、「これは、いいなあ」と思えるものを、一人でも多くの学生が、地味に、こっそりと、見つけてくれるのが楽しみです。

 以上、今日の小噺でした。

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